第2話 パンツ職人、追放されるッ!!!!


「あのー……! 私も……一枚もらっていいですかっ????」

「あなたは……」


 声をかけてきたのは、またしても絶世の美人さんだった。

 ピンク色のボリュームのある髪が、これまたボリュームのある胸に覆いかぶさっている。

 頭のてっぺんからアホ毛がでていて可愛い。

 まつ毛が長くて少したれ目がちで……見た目から母性があふれ出ているような女性だ。


「あっ! 突然声をかけてしまってすみません! 私はロゼッタ・リヴィアというものです。興味深いお話が聴こえてきたものですから……」

「ロゼッタさんですか……。僕はルインです。それで、パンツの試着をしていただけるんですか?」

「ええ、私でよければ」

「ぜひお願いします!」


 よかった、こんなにもすぐに試着してくれる女性が現れるなんて、僕は運がいいな。


「ロゼッタさんは、どうして試着を申し出てくださったんですか?」

「実は私、前からこのギルドに来るたびに、あなたのことを見ていたんですよ」

「えぇ!? ぼ、僕をですか!?」

「ええ。よく働く子だなぁ……って思って」

「そんな……ありがとうございます。僕はただ一生懸命やってるだけですよ」

「それがすごいんですよ! なかなか出来ることじゃありません」


 まさか僕の仕事ぶりを見てくれていた人がいたなんて。

 褒められるのは少し慣れていなくて恥ずかしいけど、うれしいなぁ。

 僕の仕事は雑用ばかりでギルドの人たちにはなかなか評価されないんだけどね……。


「それじゃあ、また明日きます。パンツの感想はそのときに」

「はい、それではお二人とも、よろしくお願いします」


 僕はユミナさんとロゼッタさんをギルドの外まで見送る。

 明日が楽しみでもあり、怖くもある。

 だけど二人もの美人に声をかけられて、なんだか幸先さいさきがそさそうだぞ。





「ただいまー」

「おかえりー、兄さん」


 家に帰ると、最愛の妹であるルルカが出迎えてくれた。

 ルルカは少し病気がちな、身体の弱い女の子だ。

 僕たちは二人暮らしで、僕の少ない収入だけで暮らしている。

 だからルルカのためにも、クビになるわけにはいかないんだ!


「今日、鑑定を受けてスキルをもらったんだ」

「本当!? よかったね兄さん! どんなスキルだったの……?」

「それが……非常に言いにくいんだけど……その……」

「…………ん?」

「パンツ…………なんだ」

「そう……」


 なんだか妹の見る目が白くなった気がするけど、大丈夫だ。

 ルルカは僕のことが大好きなブラコン妹だから、こんなことで嫌われたりはしないはず!


「そうだ! ルルカの分も作るから、待ってて」

「いいけど……あんまりえっちなのにしたら怒るからね?」

「し、しないよ……! 妹に履かせるパンツなんだから、えっちな見た目にするわけないだろ!」

「ほんとかなぁ……? 兄さん私のこと大好きだから、えっちなパンツを履かせたいと思ってそうだなぁ……」


 ルルカが意地悪な目線を向けてくる。

 ここは兄の威厳を保つために、ガツンと言い返してやろう。


「そ、そんなことないよ! それに、僕のこと大好きなのはルルカのほうじゃないか!」

「は、はぁ!? ち、違うしぃ! 私そんなに兄さんのこと好きじゃない……かも……だしぃ!」

「じゃあなんで顔が赤いのさ!」

「こ、これは……もう! 兄さんのバカ!」


 まったく……前はあれだけ面と向かって「大好き大好き」言ってくれていたのにな。

 恥ずかしがっちゃって、思春期ってやつなのかな。

 まあ、それはともかく……。


「《パンツ製造クリエイト》――!」


 今回作ったパンツは、当たり障りのない、なんの変哲もないパンツだ。

 まさに妹に履かせるにふさわしい、そのためだけに存在するかのような妹パンツ。

 これならルルカも怒らないだろう。


 それともう一枚、一応自分用に男性パンツも作っておく。

 あとは……明日の結果を待つのみだ!


「じゃあルルカ、今日はこれを履いて寝てくれるかな?」

「わ、わかったわよ……! もっと可愛いのでもいいのに……」


 最後の方が、声が小さくなって聞き取れなかった……。


「ん?」

「な、なんでもない!」


 ルルカはパンツを僕から奪い取ると、自分の部屋に行ってしまった。

 思春期の妹ってのは、難しいものだな……。





 翌朝、妹のルルカに叩き起こされた。

 手には昨日僕が作ったパンツが握られている。

 どうしたのかな?

 おねしょでもしたのかな?


「聞いて、兄さん! 兄さんのパンツのおかげで、体調が良くなったの!」

「え!? ホント!? それは良かった!」


 確かに、ルルカの声や顔色からもそれはうかがえる。

 あんなに病弱だったルルカが、まるで冒険者のような元気さだ。

 でも、まさか僕のパンツにそんな効果が……?


「いったいこれは……どういう仕組みなんだろう。体調の良くなるパンツ……?」

「わからない……。でも、兄さんのスキルがすごいってことは確かだわ! 兄さん大好き!」

「わ……! わかったから、あんまりきつく抱き着かないで……!」


 そんなことがあったので、僕はいい気分でギルドへ向かった。

 きっとギルド長も僕を褒めてくれる……そう思っていたのに――。





「ルイン・パンツァー、お前は今日でクビだ。追放だ。はぁ……今までせっかく基礎を叩きこんでやったというのに……まったく、使えんスキルを引きおって……」

「え……どうしてですか!? 僕のパンツ、履いてくれたんですか!?」


「ああ。だからクビだと言ってるんだ! お前のパンツで俺の下半身がかぶれた。どうしてくれるんだ!」

「そんな……! 妹は僕のパンツで病弱だった身体まで治ったんですよ!?」


「キサマ! 無能な上に嘘までつくとはけしからん! さっさと出ていけ……!」

「っく……! そんな! 聞いてください親方! 話をさせてください!」


 まさに取り付く島もないというやつだ。

 ゴリボス親方は僕の言い分を聞こうともしない。

 それどころか、親方が履いたパンツを投げつけられた。

 なんとか避けたけど、危なかった……。


 でも、妹はパンツで元気になったっていうのに、どういうことなんだ……?





 仕方ないので、ギルドを出てしばらく街を歩く。

 クビになったなんて……妹になんて言おう。


「あ! 君は昨日のパンツをくれた人!」

「ユミナさん!?」


 話しかけてきたのは、昨日パンツを試着してくれたS級冒険者のユミナ・ルナフィリアさんだ。

 昨日にもまして、さらに美人に見える。

 ユミナさんは大丈夫だったのだろうか……?


「すみませんユミナさん。変なパンツを渡してしまって……」


 僕はあらかじめ、謝る。

 きっとユミナさんは、僕に文句を言うために呼び止めたのだろう。

 だが――。



「なにを言ってるんだ!? 君のパンツは最高だったよ!」



「……え?」

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