密着取材編

さいしょ

 *このお話はすべてフィクションであり、実在の人物・組織等との関係は一切ございません。



 ――この青年に怖れという感情は存在しないのだろうか。


「そりゃ怖いと思うこともありますよ。一応(僕も)人間ですからね(笑)」


 穏やかな笑みを浮かべるこの青年は、一度ひとたび戦いの場に立つと、他の誰よりも強い輝きを放つ。




 ――勇者の朝は早い。




 十月ぼう魔王城近郊きんこう


 ――見渡す限りの草原の中程なかほどに、ポツンと立てられたテントの中から一人の青年が顔を出した。


 Q.おはようございます。今日からよろしくお願いします。

「おはようございます。これもうカメラ回してるんですか?」


 ――そう言って、取材班が手にしたテレビカメラを興味深そうに覗き込む。こうして見れば、ごく普通の青年となんら変わらない。


 Q.カメラがあると緊張する?

「普通の取材や撮影なら慣れてるんですけどね。『平熱大陸Xの流儀』の密着取材だと思うと多少は(緊張)しますね(苦笑)」


 Q.いつも朝はこんなに早い?

「冒険中は大体そうですね。(起床は)早いですね」


 Q.ゆうべは お楽しみでしたね。

「一人でナニを楽しむんですか」


 Q.魔王城の近くなのに一人? パーティーの方は?

「魔法使いさんは基本野宿NGなので。いつも四ツ谷よつや(のマンション)に日帰りですね。遊び人さんは昨日定時ていじ上がりで夜のネオン街に消えてからまだ帰ってきてないですね(苦笑)戦士さんはそこの……、ほら、この中に居ます」


 ――そういって青年はテント脇に転がったひつぎを指し示す。覗き窓から棺の中を覗かせてもらった。眠るような穏やかな戦士の顔が、そこにはあった。


 幾度となく、共に苦難を乗り超えてきた盟友めいゆうの眠る棺。それでも青年は動じない。数多あまたの死線が、彼を強くした。


 Q.仲間が死んで悲しくないか?

「まあ教会に行けばすぐ復活させられますし」


 ――いつ如何いかなる場合でも心を強くほがらかに。それが、人生のテーマだと、彼は言う。


 心無いプレイヤーに、名前を『ああああ』にされた時も。


 ステータス上昇系の種を与え続けていた仲間の王子が途中でいきなり離脱りだつした時も。


 その度に彼は、例のテーマを胸に、乗り越えてきた。


 何故なら、彼の職業は、勇者なのだから。




 (チャチャチャーラッチャー♪)


 (チャチャチャ―ラチャッチャッチャー♪)


『この放送は、nikataビールと、ご覧のスポンサーの提供でお送りします』




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