らすと

「さあ、続いて質問のある方はございますか?じゃあ、そこの女性の方」

 

司会者に指名された女性が立ち上がる。



「今回エンディングの最後の部分で勇者さんが最愛の相手を幼馴染おさななじみさんと王女さんのどちらか一人を選ぶシーンで終わりましたけど、実際に勇者さんが選ぶとしたらどちらの方ですか?」


 女性の質問に対して司会者が、なかなか際どい質問ですねえ。事務所のほうからОK出ますかね?と若干苦笑いを浮かべている。


「さあ、という質問なんですが、勇者さん如何いかがでしょう?」


 勇者がマジっすかーと冗談めかして言う。


「えー。幼馴染さんと王女さんのどちらかってことですよね?」言いながら同じ舞台


上に座る幼馴染と王女の交互に目をやる。


「どっちですかねー。僕実際には結構おしとやかな子がタイプなので」そういうとすぐさま両端から苦情が飛ぶ。


「それって私たちがお淑やかじゃないみたいじゃないですか」


「今のは完全にケンカ売ってますよね」


 槍玉やりだまに挙げられた王女と幼馴染の両名が冗談半分に勇者にクレームを入れると客席からも笑いが起こる。勇者は違いますよー、と二人に釈明しゃくめいする。


「まあお二人とは今までの作品なんかでも随分ずいぶん共演しているので、どちらかというと家族みたいな感じなんです。なので恋人として選ぶっていうのはなんか変な感じですよね。もちろんお二人とも大変にお綺麗きれいな方々なので僕ごときには勿体ないな、という感じでもあるのかなー、みたいな。はい。こんな感じでよろしいでしょうか?」勇者が茶化ちゃかした感じで説明すると再び会場が笑いに包まれる。


「勇者さんありがとうございました。さ、どんどん参りましょう。挙手をお願いします。じゃあ、一番前の席の男の子。どうぞ」


「ぼくのしょうらいの夢はまほう使いさんのようにすごいまほうを使えるようになることなのですが、どうしたらすごいまほうを使えるようになりますか?おしえてください」


 男の子から指名された魔法使いが、え?私?と自分を指す。


「なるほど。将来の夢は魔法使いさんのようになりたいということですね。さあ、魔法使いさん。いかがでしょう?」


「魔法が使えるようになりたいってことですよねー。今は何か使える?」観客席の男の子に向かって魔法使いが訪ねる。男の子は悲しそうな表情で首を横に何度か振った。


「そっかー。まだ使えないんだね。私が初めて魔法を使えるようになったのは十二歳くらいの頃だから実は結構遅いんですよ」


 魔法使いの言葉を聞いた客席から意外だという風に驚きの声が上がる。


「そうなんですよ。五歳頃から色々勉強してたんですけどなかなか上手くならなくて。で、もう練習するのやめようかなーって思いながらもここでやめちゃうとなんかくやしいなって毎日続けてたらある日突然使えるようになって。最初に覚えたのはライトアップっていう明かりを付ける魔法だったんですけど、そこからは割と早かったかも知れないですねー」


「魔法使いさんにもそんな時期があったなんてなんだか意外ですね」司会者が観客の気持ちを代弁する。


「この話すると結構皆さん驚くんですよ。だから君も頑張って練習してればいつかは魔法を使えるようになるからね。もちろん練習だけじゃなくて友達と遊んだり勉強したりご飯を沢山食べてしっかり寝ることも大切だからね」


 魔法使いがそう話を結ぶと男の子は嬉しそうにぺこりとお辞儀をして着席した。誰からともなく拍手が上がると、魔法使いが照れくさかったのか、とんがり帽子を目深に被り直した。


「確かに魔法使いさん休憩中はよく食ってよく寝てますよねー」


 勇者が茶化すとほっこりした空気に再び笑いの色が混じる。


「はい。魔法使いさんありがとうございました。さあ、それではあらためて、ご質問のある方は、じゃあ、そちらの報道席の眼鏡を掛けた男性の方お願いします」


 司会者に当てられた眼鏡の男性が立ち上がると一礼したのちに自己紹介から始める。


「『月刊ギルド』の者です。先日ご結婚されたお母さんさんに質問です。お相手のお父さんさんとは二年前に『勇者の父母役』として共演されたことが交際のきっかけだった、と以前仰ってましたが、プロポーズをされたのはどちらからでしょうか?」


 記者の質問に司会者が慌てる。舞台袖のマネージャーらしき人にこの質問は大丈夫?という風に目くばせをする。しかしそれを舞台上から大丈夫というように女性が手で制する。司会者が苦笑いを浮かべる。


「本当は今回の作品に関係のない質問はご遠慮えんりょいただきたいところでもあるんですが、ご本人が許可してくれたようなので特別にお答えいただきます。お母さんさんよろしいでしょうか?」


「はい。まあ良い話なので大丈夫ですよ。どうも。勇者さんの母親役のお母さんです。プロポーズは向こうからですね」


「向こうということはお父さんさんから?」


「はい。そうです」


「ちなみにプロポーズの言葉なんかは教えていただけるんでしょうか?」

 司会者が訪ねるとお母さんは少し気恥しそうに、「普通ですよ? ホント普通に『結婚してください』でしたね」


「なるほど。ちなみにお相手のお父さんさんは本日別のお仕事で来られていないのですが、ご結婚されてから今作が初めての共演でしたけど、これまでと比べてやりやすかった、とか逆にやりづらかったみたいな部分があれば教えてください」


「そうですね。特にやりにくかったとかというのはないですね。殆ど会話シーンも無かったので。今までの殆どの作品でも勇者さんとの会話がメインなので」


「実際は殆ど僕と年齢差ないのに親子役ですからね」


 勇者がお母さんと司会者の会話に割り込む。


「そうなんですよ。ドット絵の時は割と大丈夫なんですけど、それ以外の作品だと毎回特殊メイクで皺を描いたり、ブリーチして白髪にしたりとかして結構時間が掛かって大変なんです」


「なるほど。そういった役作りの部分では苦労されるけど、お父さんさんとはプライベートでも仕事のうえでも順風満帆じゅんぷうまんぱんということでよろしいようですね。はい。お母さんさんありがとうございました。さあ。それでは……、おっと。どうやらお時間が押しているようなので、まだまだ質問は尽きないようですが、最後に監督さんと出演者の皆さんから正面のカメラに向かって一言ずつ頂きたいと思います。じゃあ、まず監督さんからお願いします」


 司会者に振られると、如何にも監督然としたサングラスに髭もじゃの男が口を開く。


「どうも、本日は『ブレイブワーク』の上映試写会に最後までお付き合いいただきありがとうございました。今回のメガホンを握らせていただきました監督と申します。今回の作品も勇者さんや魔王さん始め素晴らしい演者の方々に恵まれて大変良い仕上がりになったかと思います。また、少しやらしい話ではありますが、今回の作品の興行収入次第では『ブレイブワーク2』のお話もいただけるんじゃないかな、と密かに期待しておりますので、是非一度とは言わず二度三度と会場に足を運んでいただければ幸いです。あと、映画の公開に合わせて、来春あたりにこの作品のゲームの発売とアニメ化も決定しております。キャストに関しましては今回と同じく、この個性あふれる面子で鋭意えいい製作中ですので、是非そちらも楽しみにお待ちいただければと思います」


「監督さんありがとうございました。続いて勇者さん」


「はい。仲間と一緒に成長していくストーリーとなってますので、是非皆で見にきてください」


「勇者さんありがとうございます。続いて魔王さんよろしくお願いします」


「今回のラストの城は僕の実家を使ってますので、そのあたりも楽しみに見てみてください」


「あれ実家だったんですね。魔王さんありがとうございました。続いて魔法使いさん」


「作中で五分ほど続けて詠唱するシーンがあるんですけど、あれワンカットでやってるので『魔法使い頑張ってるなー笑』という気持ちで応援しながら見てください」


「大変でしたね。さあ、戦士さんお願いします」


「中盤の勇者君との決闘の場面はお互いガチでやっているので注目して見てください。っざす!」


「戦士さんありがとうございます。続いてゴブリンさん」


「はい。今回の作品は剣と魔法を駆使した従来のファンタジー感はそのままにまったく新しいアバンギャルドな試みなども盛り込まれております。また私含めた出演者全員の持ち味を生かしたヒューマンドラマのような展開も作品に素敵な彩りを添えられているんじゃないかなと思います。是非楽しんでください」


 出演者一同が一通り話し終えていく。


「さあ、じゃあいよいよ最後の方ですね。今回もこの方に締めてもらいましょう。遊び人さんよろしくお願いします」


「そろそろ就職しようと思ってます」


「はい。ありがとうございました。本日は『ブレイブワーク』の上映試写会に最後までお付き合いいただきありがとうございました。なお劇中でモンスター役の方々が村人を襲うシーンがありますが、実際には大変優しい方々なので街中で合っても決して檜の棒などで叩いたりはしないでください。本日は大変ありがとうございました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る