まんなか
魔法使いの『勇者キモい発言』によって、一時は対立する
「そもそも必殺技の名前からして偉い人たちが今回遊び人さんを全面的にプッシュしてるのが丸わかりじゃないですか。なんすか『セブンスヘブンジョーカー』って?『地獄へ誘う七人の死神』って書いて『セブンスヘブンジョーカー』ですよ? ただトランプのカード七枚相手に向かって投げてるだけなのに。それだったら僕だってカード投げたいですよ。ポーカーめっちゃ得意ですし僕」
「多分ポーカーの強さは関係ないと思いますよ?」
勇者の発言に魔王が苦笑する。
「ていうか、そもそもこれ翻訳したって絶対『地獄へ誘う七人の死神』って意味にならないですよね? キラキラネームと同じ原理で完全に意味より響きに重きを置いてますよね? 『
どうでもいいと言う割に熱を帯びた主張をする勇者に対して、勇者さんの身近に
「それに比べて僕のなんて
「知らないわよ」
魔法使いがジト目で勇者を見る。コイツよく喋るな―、といった具合にうんざりした様子だ。
「大体僕たちって普段特に必殺技に名前なんて付けてるわけじゃないじゃないですか? それを撮影中にいきなり『あ、今の技、この技名叫びながらやってもらっていいっすかー?』って言われても意味が分からないじゃないですか。カラオケで僕が歌う曲の映像にだけ何故か毎回『シャドーボクシングしてる男』が出てくるぐらい意味不明ですよ。あれ何なんですかね?」
「ま、まあ、後半はちょっとよく分からないですけど、確かに現場によっては全然こちらがイメージしていたのと違う技名でお願いされたりすることはありますよね。でもまあそれも偉い人たちが必死で残業したりしながら真面目に決めてくれてるんだと思いますよ?」
魔王が苦笑気味に答えるも、やっぱり勇者は引き下がらない。最近の勇者はテンションが高くなると
「別に魔王さんの言うようにハゲ散らかした偉い人達で勝手に技名でも何でも決めたら良いとは思いますよ?」
「いや、僕そんな失礼な感じで言ってませんよね」
「どうせハゲ散らかしたオッサンたちが揃いも揃って『うむ、この技は
「絶対違うと思いますけど」
冷や汗をかきつつ魔王が即座に否定する。
「けど、技名はまだしも当て字がヤバいじゃないですか。シューティングスターフラッシュですよ? 普通に暮らしてたら絶対に使うことないですよ? 『今年の夏はセパレートタイプのシューティングスターフラッシュでライバルの女子に差をつけるのだ』とかって使ったりしませんよね?」
「
魔王は
『反論する』
『同調する』
『シカトする』
➡『にげる(話題を軌道修正する)』
の中から『にげる(話題を軌道修正する)』を選択した。
しかし勇者に回り込まれてしまった。
「ていうかシューティングスターフラッシュって若干、獣神サ○ダー・ライ○ーの飛び技に名前似てますよね? この名前考えた人絶対新日と全日だったら新日派ですよね? まあ僕はみちプロ派ですけど」
あ、今日勇者さん特に面倒くさい日だ。
魔王は勇者を『シカトする』を選択した。
「ま、魔法使いさんは台詞に関して困ってることとかってありますか?」
「私? 私の場合は、うーん……そうねー」
突然の魔王の振りに、魔法使いは真剣に悩んでいる様子を見せる。
「私の場合は詠唱の台詞が長すぎるかなー。だって、冷静に考えると戦ってる最中にあんなに喋ってる余裕ないでしょ? ……あ、今一個思い出したんだけど、アレのせいでこの前ホットヨガの教室に通ってたら子供たちに囲まれて『いつもの詠唱やってー!』って言われて結構困ったんだよね―」
「魔法使いさんてヨガ教室通ってるんですね」
「なんかー休日のOLさんみたいですねー」
女騎士の言葉に、「最近は
「魔法使いさんも大変でしたね」
「まあ正直言うとその時はたまたま暗記してた『黄昏よりも昏きもの血の流れより紅きごにょごにょ』で誤魔化したけど」
「お、女騎士さんも何か困ったこととかありますよね!?」
危険な香りを察知した魔王が即座に女騎士に水を向ける。
「そうですねー。私の場合だとー、負けた時の台詞が嫌ですねー」
女騎士の言葉にその場の全員が、あっ、『
「俗にいう『くっころ』ですよね?」
勇者の言葉に女騎士が困った顔でコクリと頷く。
「実はー、あれ凄く嫌なんですよー。あの台詞のせいで私だけじゃなくてゴブリンさんやオークさんも
「確かに『くっころ』を聞くと何故かは分からないですけどゴブリンさんやオークさんの顔が浮かんできますよね。本当に何故かは分からないけど捉えられて着てる服がボロボロになった女騎士さんの前に屈強なオークさん達が
勇者が真剣な顔でやたらに何故かは分からないと強調しながら頷く。
「私はまー、良いですよー? 良くないですけどー、そういうイメージは嫌ですけどー、それで昔よりは人気が出ましたしー、メディアへの露出度も高くなってきましたしー、おかげで最近はお給料もアップしてきましたからー。でもオークさんやゴブリンさんへの風当たりがキツクなるのは可愛そうだと思うんですー」
「確かにあの二人は可愛そうですよね。そのせいでオークさんとこ
魔王の情報に魔法使いもうんうんと頷く。
「ゴブリンさんも、あんな役のせいで最近は姪っ子ちゃんに避けられてるらしくて凄くショック受けてたもんね」
「本当は二人とも世間一般に浸透しているようなキャラじゃないんですけどね」
「あー。そういえばー、ゴブリンさんって元々今の仕事始める前はダーマン神殿の職員だったらしいですよー?」
「マジっすか!? ダーマン神殿って転職業界
女騎士の情報に勇者が目を見開いて驚く。
「でもなんでそんなエリートが今みたいな仕事してるんだろー?」
疑問に思ったのか、魔法使いが首をかしげる。
「それは、多分一時期ダーマン神殿が経営危機に陥ったのが原因みたいですね」
「あー。あれが原因かー」
魔王の言葉に魔法使いが深刻な表情を浮かべる。
「そんなことありましたっけ?」
「勇者さん知らないんですかー? 昔ダーマン神殿が
女騎士がほんわかとした口調で勇者に教える。
「ん? それってもしかしてダーマンショックのことですか? え? ダーマンショックってひょっとしてダーマン神殿が経営危機に陥ったってこと?」
「あんた一体何と勘違いしてたのよ」
魔法使いがジト目で勇者を見る。
「いや、僕はてっきりダーマン神殿に行っても転職させてもらえない人がショックを受けることをダーマンショックって言うんだとばっかり思ってました」
「まあ、あんたダーマン神殿とかあんまり興味ないもんね?勇者だから基本転職とかしないし」
魔法使いが引き続き生ぬるい視線を送りながらも勇者をフォローする。
「じゃあ、それがきっかけでゴブリンさんはこの業界に入ってきたってことですか?」
「そうみたいですよー? 映画版のー、『ブレイブワーク』の公開試写会の打ち上げで言ってましたよー?」
「なんか、普段言わないだけでみんな結構大変なんですねー」
勇者の言葉に他の三人がややしんみりした表情を浮かべた。
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