21 鎌
「タイヨウ、ボクやっぱり帰る。宿題するの忘れてた!」
タイヨウが引き留めようと手を伸ばした。それを遮断するように素早く次の言葉を紡いだ。
「今日はありがとう」
人は誰も他人なんか助けてくれないものだから。自分で助かるしかない。ましてや自分は人ですらない。
唐突に、トキコの身体がミシミシと音を立てて変化した。カマキリだ。
だが、普段のそれと異なることに気付いた。
トキコは自分の変化に目を見張って、後退りした。
鎌がある。武器がある。人間の頭部を挟み込んでも長さが余るほど巨大だ。
これは簡単に人を傷つけられる代物だと、瞬間的に知った。
鎌の先は鋭く尖り、屋外にある玄関灯に重たく反射した。
トキコの変化を――内面の変化も含めて――、タイヨウが直感で悟って「待って……!」と叫んだ。
さっきは良心的な庇護欲に突き動かされた目をしていた。しかし今はむしろタイヨウから懇願するような響きだった。
トキコは一瞬鎌を振り
そこでようやく、タイヨウの母親が事態を認識し、悲鳴を上げて腰を抜かした。
踵を返し、家を飛び出した。タイヨウが追いかけてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます