3章

18 そうめん

 タイヨウは誘われて、トキコの自宅に着いた。

 トキコの突然の死にたい宣言をどうにか阻止してまだ二日しか経っていない。


「お、親は?」


「いいの、いいの」


 トキコは何処か余裕のない、それでいてタイヨウに対する切実な期待を透けて見せていた。


 普段、陽気なようで何を考えているか分かりにくい彼だから、タイヨウは余計にビビり気味になってしまった。


 親不在の、小六の子供の家に上がり込む、十九才男。この図って客観的にどうなんだろ。犯罪臭がするような……。


 室内は程々に生活感があって、要するに特筆する点のない一軒家だった。


 タイヨウの偏見だが、花が飾ってあったり壁紙や小物が凝っていないところは、トキコから聞いた通り、如何にも父親と二人暮らしという感じだった。


 トキコに指示されるまま卓袱台ちゃぶだいを組み立てた。リビングの真ん中で同じ卓袱台で向かい合って、タイヨウは志望大学の過去問、トキコは夏休みの宿題に手をつけた。


 昼ご飯に二人で暑い暑い、と文句を垂れながらそうめんを湯掻いて、具材はきゅうりだけ乗っけて早食いした。

 トキコはいつも以上に楽し気に笑った。


 今日誘われたのは何も特別な事をしたかった訳ではないらしい。

 タイヨウは移動時間の手間から、いつも通り俺んちに来れば良かったのに、という不満がちらりとよぎった。





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