17 夕立

 トキコは一気に冷めた。沸騰したお湯が排水口に吸い込まれて、湯気が立ち消えるように。

 もう、死ぬとかそういう事は考えられなかった。


「……し、死なないで……」


 タイヨウの声が、いつになく震えていた。


 うわ、ガチだ。ガチで心配してくれた……。じゃない! 心配させてしまった……。


 その事にかなり動揺した。


「あ、うんうん。ボク、晩飯とか、何か、買い行く!」


「……いかないで」


 タイヨウの腕が腰に回った。その腕を振り解く以前に触れていいのかも分からない。


「コンビニでい? 海老とか、……ボク、海老とか食べたい感じ。じゃグラタン一択っすね!」


「死ぬな」


「あ、うんうん……」


 引き摺られるようにダイビングルームのソファーに連行された。


「……な、何食べたい? 余り物、って何もないしなあ。ってここタイヨウの家じゃんね。買い物、ふ、二人で行く? 食べなくてもい? いや~、駄目だよね~、食べ盛りの青少年が~」


 不毛な事を喋り続けてみるが、タイヨウの腕にぐんぐん力がこもっていく。


「行くなっつってんの。あと、もう喋んな……」


 目元が肩口に押し付けられた。背を屈めて、全身で拘束されている気分になる。

 実際、トキコが馬鹿な事をしでかさないよう拘束しているつもりかもしれない。


 その後はどうにかこうにかタイヨウを宥めた。

 タイヨウは出会って初めて見るガチの深刻顔で。二度とそんなことをしない、とトキコは念入りに約束させられた。


 酷く残念な気持ちと、少しの嬉しさでトキコは一杯一杯だった。





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