8 夢

 作家になりたいというのが、誰にも告げたことのないタイヨウの夢だった。

 何かにつけて、何もつけない時にも書いてきたものを常時部屋に置きっぱなしにしていた。


 その休日。というのは予備校に行かない祝日。

 散歩していたらトキコと遭遇した。


 暇だ暇だ、と喚いたトキコが勝手に家までついてきて、勝手にタイヨウの部屋に上がり込んだ。書き散らした社会風刺の成り損ないが落ちている自室に。


「タイヨウ、これ何ー?」


 それらがトキコの目に触れてしまった。


 羞恥心が足先から駆け上ってくる。


 ヤバいヤバいヤバいっ……!

 黒歴史、黒歴史、黒歴史っ……!


 素早くトキコの手からプリントを取り上げた。トキコが何かを悟って、タイヨウの手を取る。


「大丈夫? 殴ってもいいよ」


「殴らねえよ!?」


 そう怒鳴って、トキコの手を払った。

 自分が完全に八つ当たり的態度を取ってしまった事から目を逸らしたくて家を飛び出す。


 トキコはタイヨウの態度を意に介さずついてきた。


 彼はタイヨウの細かな表情の変化になんて目敏く気付くんだろう。欠点は気遣い方を決定的に間違えた事だ。


 最悪っ……! クソみっともない。この落書きもさっきの自分の態度も。


 タイヨウはみっともなく尻尾を巻いて、全速力で逃げた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る