物語の楽しさは、大体フィーリングで気付くもの

 過去、自分をここまで書と読に惹き込んだのは、まあ多数の作家のおかげなのであるが、その中でも私が活字にどっぷりと浸かるきっかけは確かにあった。


 実家のベッドで埃を被って眠っているであろう『パズル』へ思いを馳せ、今ここに記す。


 〇


 山田悠介という作家をご存知だろうか。

『リアル鬼ごっこ』が最も有名であろう氏の小説は、私の中学時代に大きな輝きを見せてくれた。


 作品全体を通してパニックホラーやサスペンスが多いものの、その支持は中高生に多く、今もなお新たな作品が顔を出す。


 時には心にグッとくる作品を出し、読者の涙を誘っていた。


 そんな山田氏の作品であるが、実は今は読みたいとは思っていない。

 否、読めない。


 気恥ずかしくて読めなくなっていた。


 〇


 彼の小説は復讐、血みどろ、遊びといった、年頃の子どもたちが大好きな要素をふんだんに含んでいる。

 無論、そういう作品は読んでいてハラハラするし、次の展開が気になるものである。


 ただ、そこに文体の問題は絡む。


 文体と言うか表現力の問題にはなるが、氏の作品における表現力は正直乏しいと言える。

 急場しのぎのような勢いで描かれる描写に、表現の浅い言葉。


 若年層への人気が高く、年齢層が上がるうちに支持の声が見られないのも、それが一因かもしれない。


 だからこそ、今の私には読めないのである。


 とはいえ、若年層の支持が多いのは確かであるし、私のように年齢を重ねて氏の作品から離れる人間がいるのもまた事実である。


「小説に触れる」というきっかけを与える者としては、山田氏は立派な立役者なのだ。


 〇


 老若男女、あらゆる人から読まれ支持を得る小説を書ける人は珍しい。


 今はもう読まぬ氏の作品でも、私に書への関心を確かに与えてくれた。

 それだけでいい。


 山田氏の初めて読んだ『パズル』を想い、今夜はここで筆を置く。


「普段より文章が短いし、表現がおかしい」と?


 …さぁ?何のことやら。

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