ミステリと私の間にある確執

 書き出しから迷いに迷って既に何度書き直したか分からないが、今回の書き出しは本当に難しい。


 内容は、単に今の私がミステリを虫の如く嫌っている、というだけなのではあるが、それをどう書き出したものか。これに悩まされた。


 道尾秀介氏の『カラスの親指』を傍に置いて、深く考える。


 彼の書籍には、だいぶ久しく触れていない。

 中学時代にざっと読み通してからは、自然と離れてしまった。


『ラットマン』にしろ『龍神の雨』にしろ、彼の作品は終盤における怒涛の種明かしが味とも言える。


 むしろ、種明かし無くして彼の作品とは言えまい。

 エンジンのついていない車と同じようなもので、彼にとっては序盤に散りばめられた謎がある種の着火剤ともいえよう。


 そんなミステリ色の強い道尾氏の作品であるが、どうにも今の私には読むことが出来ないでいた。

 それこそが私がミステリを嫌っている理由が起因しているのである。


 〇


 ミステリ作品とはそもそも、文学作品として楽しむだけではなく、読者自らが考察や推理を交えて現状以降の展開を紐解くところにある。

 登場人物の意味深な行動であったり、あるはずのないモノがそこにあったり、そういった作者が置いて行った謎を拾い集めて読者に考える時間を与える。


 明らかな違和感を残すのはある程度断定的な場所まで読者を案内してしまうことになるが、それは小説という作品の性質上、致し方ない部分である。


 さて、ここで考えてみてほしい。

 この似非日記作品のはじめに書き記した、私の性格について。


 学ぶ事より、努力することより。

 それらを全てを長く長く流れる荒川へ投げ出してしまうほどの面倒臭がりなのだ。


 そんな人間に、ミステリを労して読もうという心意気が、果たしてどこにあるというのか。

 学生の時に持ち合わせていた有り余る時間と体力は、はるか昔に消え失せた。


 今の私は、語るも恐ろしい惰性で生きたダメ人間なのだ。


 〇


『カラスの親指』は、とある詐欺師二人の話から始まる。


 それぞれがそれぞれに壮絶な過去を持ち、新たに加わる仲間と共にかつて自分たちを追い込んだ相手へ復讐をしようと試みるストーリーだ。


 前半に多くの詐欺手段を用いた展開を見せ、中盤には個性豊かな人物たちが現れ、終盤には超怒涛のネタばらしが行われる。

 描写が現実的な分、人によっては辛いと思う部分が含まれるが、最後にはきちんと救われる話にはなっている。安心してほしい。


 この作品がミステリかと言われると、私は頭を悩ませるところである。

 ミステリほど謎めいてはいないし、別に殺人が行われるような血みどろのものでもない。

 ただ、随所にちりばめられたピースを拾い集めれば、確かに終盤の答えへ繋がるのだ。そういった点ではミステリと言えるだろう。


 そんな『カラスの親指』を傍に置きつつ、やはり私は考える。

 ミステリって読めないな、と。


 〇


 人によって作品の好みはあって当然であるが、ジャンルを選り好みしていては良い作品も書けないな、と思う。


 かといってベストセラー作家が全ジャンルの作品を完璧に網羅しているかというわけでもないだろう。

 程々に、ある程度の知識はあるはずではある。


 最初から触れず読まずではなく、少しでも自分の糧になると思い、それぞれのジャンルへ小さく手を出しているのではないだろうか。


 私はもう一度『カラスの親指』を開く。


 そこには中学時代に思い描いた、二人の詐欺師がいた。


 三ページほどで読むのをやめた。

 何故なら、私は面倒臭がりだからだ。

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