第3話 君がいるだけで-3
土曜の夕方、二郎が校門を出ようとすると、先日のロールスロイスが停まっていた。執事の佐藤が深々と礼をして二郎を迎えた。二郎は、驚きながらも招かれるままに、車に乗り込んだ。呆気に取られる仲間たちの前をロールスロイスは静かに立ち去った。一郎は得意気に言った。
「ほらな、言った通りだったろ」イチロー
「何がよ」ミエコ
美恵子はきっと睨みながら言った。
「何がそんなに嬉しいの」ミエコ
「何、ヤキモチ妬いてるんだよ」イチロー
「誰もヤキモチなんか妬いてないわ」ミエコ
「でも、すごいな、今の車」江川
江川が言うと、綾も大きく頷いた。
「御馳走食えるんだろうな」イチロー
「直人んちも金持ちじゃないか」江川
「でも、そんなに御馳走なんてしないよ」直人
「前に由美ちゃんはロールスロイスで送り迎えしてたじゃない」ミエコ
「由美子は特別なんだよ。心臓が悪かったし、前の学校は通学に時間がかかってたし、お父さんは由美子だけは大事にしてるから」直人
「あとは、適当、ってか」イチロー
「うちは普通の家庭だよ。ちょっと、家が広いくらいだよ」直人
「広すぎるよ、バカ!敷地ン中にバッティング練習場まで作ってあって、庭はジョギングできるくらい広くて、マンションまで敷地にあって」イチロー
「もういいよ、イチローやめろよ。何かみっともないよ」江川
「そうよ、イチロー。恥ずかしいから、やめなさい」ミエコ
「うるせえ、保護者面すんな」イチロー
「何よ、偉そうに」ミエコ
「やろうってのか、あ?」イチロー
「また、やってる。止めないの、あやちゃん?」江川
「だって無理だもん」アヤ
「ゴジラ対キングキドラにゃあ、どんな空手の達人も敵わないって」江川
「そう。あたし、か弱い乙女だから」アヤ
「最近、変わってきてない?あやちゃん」直人
「イチローに感化されたか。ジローを見習った方がいいよ、言っとくけど」江川
「はい」アヤ
「はい、じゃないだろ。あやぁ」イチロー
* * *
車がレストランの玄関に到着するとイブニングドレスをまとった少女が二郎を迎えた。二郎はあまりの出来事に立ち尽くしていると、執事の佐藤が二郎の荷物を預かった。二郎は手持ち無沙汰の状態で招かれるままに少女の後をついて歩いた。
二郎が招かれたのはVIPと書かれた部屋だった。開かれた扉の正面に、風格のある紳士が座っていた。二郎は姿勢を正し静かに礼をした。すると、相手も立ち上がって、迎えてくれた。
「光明寺君だったね、今日はようこそ」
「お招きいただきありがとうございます」
「いや、こちらこそ礼を言わなければならない。理沙から聞かせてもらったよ。もう少しで事故になるところを、身を挺して庇ってもらったそうだね」
「いえ、そんな。ただ、咄嗟のことで、子供を助けたかっただけです」
「そうかそうか。いい少年だ。まぁ、座りたまえ」
「はい、ありがとうございます」
テーブルについて二郎は面食らった。前に並べられた皿も、フォークもナイフもスプーンもどれも輝ききらめいており、二郎には眩しすぎた。二郎は少し躊躇したが意を決して言った。
「あの、ボク、テーブルマナーは知りませんので、無礼なことをするかもしれませんが」
「あぁ、そうか。気にすることはないよ。今日は無礼講だ。君に楽しんでもらわなくちゃ御礼にならないからな」
「そのために今日は個室を用意してもらったの」
理沙は微笑みながら二郎に言った。
「光明寺君は、二年生ということだったね」
「はい」
「うちの理沙も二年生なんだ」
「あ、そうですか。どちらの学校です?」
「あけぼの女学院です」
「この間、ピアノのお稽古とか言ってましたね」
「はい。五つの頃から習っております」
「光明寺君は、何か音楽をしてるのかね?」
「いえ、ボクは、野球小僧ですから」
「そうか。いや、若いうちはスポーツに打ち込むのもいいことだ。わたしも学生時分はテニスをしていたんだが」
「お父様。今日はお父様のお話を聞きに来ていただいたわけではありませんことよ。ね、光明寺様」
「いえ」
二郎は恐縮したまま頷いた。
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