第2話 君がいるだけで-2

 「で、どうなったって?」

「だから、それで目川病院に行って、検査受けて、それでこんな時間になったんだよ」

兄の一郎は腕組みをしながら二郎を睨んだ。

「だからって、こんな時間まで連絡しないってのは、おかしいだろ」

「だって、お金なんて持ってないし」

「借りりゃあいいじゃねえか。そのお嬢さんに」

「何となく、言い出せなかったんだよ。だって、蒼白な顔で見つめてるんだから」

「全く。おばさんも随分心配してたぞ」

「でも、兄さんだって、たまに連絡なしで遊び歩いてるじゃないか」

「オレはいいんだよ。今まで一回もそんなことしてないヤツが、帰って来ないから心配なんだよ。事故にでも合ったんじゃないかって」

「まぁ、事故みたいなもんだけど」

「で、それで送ってもらったんだな、あのロールスロイスに」

「そう。すごいだろ」

「お金持ちのお嬢様だな。うまくいきゃ、逆玉の輿ってとこだな」

「何、バカなこと言ってるんだよ」

「オマエ、連絡先とか訊かなかったのか」

「あるよ。ここに」

「やったね。ちょっと、頭が痛いとか言ったら、お金がガッポリ」

「それじゃ、当たり屋だよ。大丈夫だよ。どっこも痛くないよ。だけど、今度の土曜日、食事に招かれたんだ。お詫びにって」

「へえぇ~、やっぱり逆玉狙いだな」

「関係ないよ。お礼だって。もう少しで事故になるとこだったのをよく防いでくれたって」

「今頃、運転手はコンクリート詰めで海に沈められていた、ってか」

「それじゃヤクザだよ。兄さんは滅茶苦茶言ってるな」

「今度の土曜日か。どこ?」

「迎えに来るって。学校まで」

「クラブはどうするんだ?」

「夕方、校門で待ってるって」

「正装していかなきゃな、タキシードなんか着て」

「いいよ、制服で。学生は制服が正装」

「いいねぇ、美少女のお嬢様に招かれて、晩餐会か。羨ましいね」

「綾ちゃんに言うよ、今の台詞」

「バカッ!やめろ。あいつ、ヤキモチ妬きなんだ」

「いいじゃないの、仲が良くて」

「お前も、いい加減どうにかしろよ」

「どうにか、って?」

「ホントにわかってないのか?この鈍感」

「…そんなこと言ったって」

「まぁ、いいよ。おい、風呂入ってもいいのか」

「うん、何ともないから」

「じゃあ、風呂行ってこいよ、まだ開いてるだろ」

「ん、じゃあそうする」

 二郎が出て行った後、一郎はぽつりと呟いた。

「あいつは鈍いのか、とぼけてるのかわかんねえからな」


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