第16話「頑張った人にはご褒美を」

「いいから、とっとと課題やらないと提出終わっちまうぞ」


「はーい……。あ、そういえば新太、あのとき買ったゲームどうしたの?」


「……あー、あれか。あれならもう終わったけど」


「えっ!? さすがに早くない!? だってあれ、かなりやり込み度高いやつなんだよね?」


「さすがにやり込み要素は終わってないけど、ストーリーだったら終わらせた。ゲームって大半は、ストーリーが終わってからが本番ってパターンが多いからな」


「ふぇ~、そういうもんなんだ」


 実際プレイをしてみて、今作も前作に劣らないほどの神ゲーだった。普段は厳しい商品レビューも星5を付け、絶賛の評価を幅広く受けていた。


 作品が『神作』だと評価される所以は多々あるが、多くの場合はストーリー構成からキャラの印象付け、そしてクリア後コンテンツに該当する。特にストーリークリア後のコンテンツによって、多くの人がどれだけ長くそのゲームを遊び、愛してくれるかが変わる。いわば1つのやり込み要素。


 オレは主ひとりプレイだからインターネットを使ったコンテンツには手を出さないが、それでもそんなオレのようなユーザー向けでも最期まで遊びつくせられるよう、様々なクエストが存在している。……本当、あの頃の思い出が蘇ったみたいだった。


 当然そんなコンテンツをたった数日で終わらせることは不可能なため、今日もやろうと思っていたのに……今こうして、課題に付き合わされているというわけだ。


「って、お前やってないのか? ゲームセンターいただろ」


「まぁね……興味はあったけど、1人でやるよりやっぱ新太とやりたいな~って思ってたんだけど。まさかここまで行動力高いとは思わなかった……。だからかなぁ、この難しいレポートも早めに終わるのって」


「関係ないだろ。やるかやらないか、それだけじゃないのか?」


 やる気を出せないときなんて誰にだってある。当然オレにも。

 課題をやりたいのに後ろ向きになったり面倒になったり、そんなこと過去何十回あったことか、もう忘れたけど。


 やるべきことは早めにやる。そうしたら自然とそうなっただけだしな。まぁ、偶に順応しないことも当然あるわけなんだけども。


「……ん? ってことはもしかして、あのときゲーセンに居たのって、やっぱオレのことつけ回してた……ってことなんじゃ」


「……ふぇ?」


 惚けた顔をしたところで明らかな確信犯だという立証は既に得た。よし、後はこれをどうやってこいつに気づかれずに警察に言い渡すかだな。


「やってないからね!? 僕、犯罪者じゃないからね!?」


「……嘘だよ。今日は録音もしてないから」


「今日は? 今、って言ったよね? ……もしかして過去のには確信的な証拠が残ってるってこと!? ちょ、今すぐ消して! 今すぐに消して~!」


「……その言動自体が『証拠』になってるとは思わんのか、お前は」


 オレは軽くため息を吐く。

 着けられてる、尾行されてる、そんな感覚はしてたけど、あくまでそれは友好関係になるための手段の一つだと思ってたけど……まさかモノホンの尾行されてるとは思わなんだ。


 数日間こうして一緒に居て、ある程度のことはわかってきたつもりでいた。


 けど、こうして一緒に居ることで新しい面も見えてくるもんだな。例えば、ストーカー行為の確証が取れたとか、そういうの。


 ……でも、それでオレが助かったのかもしれないと考えたら、全然安いのかもな。


「うぅ……。また新太に遊ばれたぁ……」


「変に捉えるな」


「ダメだ……やる気が失せて、もう一歩も前に進む気がしません……」


「…………」


 リビングの机に顔を埋めながら、瀬川は唸るように弱々しい声を上げた。


 ……何だよ。その言い方じゃ、まるでオレが悪いみたいじゃないか。元々ここに勝手に上がり込んできて『課題だけやらせて~』って言ってきたの自分の癖に、オレと話ばっかりで全く課題進まないし。寧ろ本人諦めモード入っちゃったし。


 これじゃあ、永遠にこの場に留まり続けるかもしれない。せっかく時間出来たからゲームやろうと思ったのに……。


 帰ってもらう手段は1つだけ。――課題を終わらせること。

 けどあのままじゃあ、絶対動かないだろうし……。


(……どうしたら、課題進めてくれるんだ? あんま、こういう友達みたいなことしたことなかったから、どうしたらいいか……わかんないんだけど)


 あらゆるパターンを予測したが、全て空振りの一歩を辿っていく結果となった。


 こういうときになって、自分の経験があだとなってくるなんて思いもしなかった。どんなに1人が嫌でも、1人でいることが最適解だったから。


 あの悪夢は今でもまだ、眠る度に現れる。

 最近は緩和されつつあるけど、いつまた飛び起きるかもわからない中で、誰かが側に居たら確実に迷惑をかけるんじゃないかと……そうなることが、1番嫌だから。


(……ん? 1人……最適解……?)


 瞬間、頭の中を過ったのは瀬川をやる気にさせるかもしれない方法だった。

 あまり成功する未来が見えないけど……やってみて、損はないはず。


「……なぁ、瀬川。もしその課題が片付いたら、オレと二人プレイでも、するか?」


「…………えっ。いいの? 新太と、一緒に……? 待ってて新太、数秒で終わらせる」


「数秒でその余白は埋まらんと思うけど。まぁ……頑張れ」


「うおぉぉおおお――――――――――――――っ!!」



 ……何かよくわかんないけど、やる気は出たみたいだし良しとするか。

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