第15話「ストーカーは今日も、オレの家に上がり込む」

「うわ~ん! 新太ぁ~、課題終わんないよぉ~! たしゅけて~!」


「知るか。家に帰ってやれ」


「……僕もこのマンション住んでるんだけど? ってことで、ここに滞在出来る理由は確保済みなのだ! ドヤぁ~!」


「………………」


 あの出来事から数日後、オレは買ってきたゲームをプレイするため寄り道もせずに家へと即帰宅した。……のは良かったんだが、どうしてかこのストーカーを家に入れてしまっている。


 友好関係を望むストーカーこと、瀬川はあの日、オレの秘密を知ってしまった。


 そしてそれを知っても尚、オレのことを気にかけているのか、それとも自分自身の目標達成のためなのかどうかは定かではないが、こうして一緒に居てくれている。


 瀬川雄馬――同じ大学の文学部であり、周りに人が絶えたことがない完璧リア充。ただそれは、誰とでも仲良く出来るコミュニケーション能力が長けている話であって、本人の学習能力やらには何の補正もかかっていないらしい。


 そしてこいつは、極度のワンコ系であることがわかった。要は人懐っこい、獣耳と尻尾を生やした(※幻覚です)甘えん坊というわけだ。


 こうして締め切り寸前の課題に追われている姿からも、そんな想像が付きやすい。


「にしてもビックリだね~。まさかこんな偶然があるなんてさ! いやぁ~、これぞ運命って感じがして俄然やる気が出てきたよ!」


「そのやる気でさっさと課題片づけてとっとと部屋戻れ」


「えぇ~、酷いなぁ。自分から上げておいて」


「上げたつもりはない。扉開けたら勝手に入ってきたの間違いだろ」


「嘘はダメだよ~。ちゃんと許可取ってくれたじゃ~ん!」


「お前の頭の中の世界線はどうなってんだ。許可なんか出した覚えないからな?」


「そうだったっけぇ~?」と、瀬川は全然可愛くないとぼけ顔をしてみせた。


 ……本当にこいつ、根がどこなのか全くわからない。意図があってオレの家に上がったのか、それとも単に気まぐれなのか。上がられるのは今日を含め3回目だが、依然として情報は掴みきれていない。


 しかし1つだけ、思いもしなかった事実が判明した。


「……でもさぁ。1つだけ許せないことがあるんだよねぇ」


「何が?」


「何で新太と同じ階、ましてや隣人同士じゃないの!! こうして同じマンションに住んでるってシチュエーションなら、そうなるのがテンプレなんじゃないの!? どうして僕と新太は隣人同士じゃないんだぁーーー!!」


「対して変わんないだろ……。たかが一階違いぐらい」


「たかが1階、されど1階なんだよ! ここまで王道の展開が送られてきたっていうのに、どうしてここだけ違うのかわかんない!! ……はっ! も、もしかして、これは試練なのか? ……そうか。これが試練だと言うなら、乗り越えてみせましょう! 天から見下ろしておきなさい神様や! 今こそ、僕と新太の愛の力を試すときが――」


「試さないでいいから、とっととやれ」


 そう。オレは気づいていなかったのだ。


 こうして運命だの何だので誤魔化す瀬川だが、どうしてオレのマンションを特定することが出来たのか。最寄り駅が同じ。その条件があった中で、どうしてその可能性を視野に入れなかったのか。今思えば、不思議で仕方がない。


 答えは1つ――同じマンションに住んでいるから。特定することが出来た、そんな条件があったなら真っ先に考えるべきことだっただろうに……。


 いや、あのときはそんなこと考えてられる余裕なんて、どこにもなかったもんな。

 ちなみに言うと、オレが住むのは8階、瀬川が住んでいるのは7階だ。十分近所だろ。


「もう……新太は何も思わないの? 友達が隣人って、スゴい運命的だと思うのに!」


「オレは寧ろ安心してるよ。お前が隣人じゃなくて」


「酷いよ~! うぇ~ん! ママ~、新太がいじめてくる~!」


「何言ってんだお前……」


 お陰様で家に帰ってきたとしても、完全に1人の空間になることは劇的に減っていった。放課後になれば、毎日と言っていいほど瀬川はオレの家に上がり込む。


 1人は好きだが、1人は嫌いだ。


 矛盾するこの好き嫌いに、話してもいないのに勝手にこいつは入ってきた。学校では普通に知らない友達と話してはいるが、どうしてか放課後はいつもオレのところに来てくれる。それだけでも……何故だか嬉しかった。


 相変わらず、瀬川の側はどうしてだか温かい。

 多分、今まで出会って来た誰よりも……。声は透き通って残らないし、多少は触れることも出来るようになった。ただ、ほんの指先。大袈裟には、まだ出来そうにない。

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