第三章
第14話「妹の遠慮」
高校生だった頃、オレは既に『対人恐怖症』を抱えていたこともあり、通信科のある学校へと3年間通い続けた。月に一度の登校はあるものの、その日だけは両親に送り迎えをしてもらい、先生にお願いし個別で授業を受けるという生活を繰り返してきた。
時折、普段は閉まっているカーテンを少し開いて外を見てみれば、そこには行き交う人々の笑った顔が視界に映る。
一瞬で背筋が凍り、あのときの光景がフラッシュバックする。
そのこともあってか、オレの1日は授業を受け、後は好きなことに時間を使う。
――それがオレの世界、それがオレの精一杯だった。
そんなオレとは打って変わって、実の妹である『伊澄千夏』はその年、念願の中学生になった。新しい制服を着て、新しいことに取り組みながら日々を過ごす千夏は、見ていてとても気持ちが良かった。
部活も正式に決めたとのことで、これからのことにワクワクする妹の姿は、オレにとっては太陽みたいなものだった。
いつも眩しくて、笑顔がとても似合う女の子。
……けど、そんな千夏もまた、押し殺していることがあった。
小学校からの友達と一緒の部活に入ることになった、新しい友達が出来た、そんな話をよく耳にしたけれど、千夏はそんな友達を家の中に入れることはしなかった。
そう、オレが家の中にいるからだ。
関連しているのかは定かではないが、千夏はいつも友達と一緒に帰って来ることがない。家の前で『また明日!』と別れる声も、聞いたことがなかった。
オレと違って交友関係が広い千夏に限って、一緒に帰る友達がいないわけがない。
その証拠に……部活までもが一緒、だと言ったのだから。
となれば答えは1つ――オレに気を遣っている、それ以外に導き出せる答えはなかった。
入院していたとき、いつも千夏が話してくれるのは、学校のことや友達のこと。それから……兄への励ましだった。
こんな妹を……どうしてオレは持ったのだろう。こんなに優しい妹の私生活にさえ、オレは邪魔している。千夏から『普通の生活』を奪ってる。
気づけばこの頃からだっただろうか。
毎日、オレのことを心配してくれる家族から、これ以上普通を奪いたくないと思い始めたのは。
迷惑になるとわかっていても、オレがいない家の中で……ごく普通の生活を送ってほしい。そんなことを思うようになったのは。
身勝手と思われようと。それしか、オレには方法が無かったから――。
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