第5部 第5話 別宮への引っ越しと猫騒動
全ての儀式が終了して、7日が経った。7日の間に行われていたのは、全ての婚姻儀式を王室記録として、書面に残す作業である。そして、出来上がった書面に二人で目を通し、署名しなくてはならず、その作業が終わるまで二人は、本城の仮住まいのままだった。
今日は、やっと新居である別宮に、移り住む引っ越しの最中だ。婚礼前に準備は、ほぼ整っていた為、本人たちが今日まで使っていて、持っていきたい物を移動するのみのはずだが、あれもこれも持って行きたくなり、思ったより時間を費やしていた。
「藍?どこーーー?フルル、藍を知らない?」
「そう言えば、先ほどから見えませんね。」
「そうなのよ。別宮に移るから、やっとこチビちゃんと住めるのに。」
チビとは、海南への移動中に月涼たちの部屋に迷い込み、藍が青華国まで連れてきたあの猫の事だ。本城では、逃げて迷ったりすると大変なことになるため、侍従部屋のある棟で一時的に飼われていたのだった。
「あー。そう、そう、そのチビちゃんを連れてくるって、言ってた気がします。」
ルーランが思い出したように言った。
「そうなの?それなら、良いんだけど・・・。」
そこへリュートが月涼に、朝のご機嫌伺にやって来た。本城仮住まいの為、契りの儀式後は、共寝が出来ていないリュートは、毎朝、月涼に口づけにやってくるのだ。
「ノックしても、返事が無いけど?今日は、何の騒ぎかな?」
「あっ・・・リュート。おはよう。さっきから、藍が居なくって・・・。」
つかつかと月涼まで近づいたリュートは、ぐっと月涼の腰を引き寄せて、口づけてから一言いう。
「君は、私より、藍にいて欲しいの?」
「もう。そんなこと・・・。言ってないでしょ・・・。リュートったら。」
「そうかなぁ。いつ来ても、藍を探している気がするけど?」
茶化しながら言うリュートに、ちょっとムッとする月涼が言い返そうとすると、また、口づけで口を塞がれた。月涼がリュートの胸をドンドンと叩くが、一向に離してくれない。
「んんんんーーー!!もう!リュート!!」
「一緒に眠れないんだから・・・朝の口づけだけは譲れないよ。リア。」
やっと、離してくれてから、いたずらっ子の様に笑うとリュートは、扉の向こうを指さした。
「あっ藍!!チビも!!」
リュートの手を離れて、猫に駆け寄る月涼。
「月ーーー。お待ちかね。チビ連れてきたぞーーー。」
チビが、月涼に飛びつき、月涼も嬉しそうに猫を抱っこしていた。ルーラン達も猫を見るために駆け寄ってくる。
「いつ見ても、綺麗な猫ですよね。チビちゃん。」
「そうよね。この深青の目が綺麗よね。銀糸の様な毛並みも手触りが良くってーーー。」
皆で、チビを撫で過ぎて、チビがぴょこんと月涼の腕から飛び降りた。あっという間に、小窓の桟に飛び乗り、そのままベランダに出て屋根の上を歩き始めた。それを追いかけて、月涼も屋根に飛び乗ろうとフワッと飛んだ。
フルルやルーランたちが、驚いて悲鳴を上げた。『キャーーー!!リァンリー様!!』
月涼の行動を見越してか、リュートが寸で、飛び移る前の月涼を後ろから抱きかかえた。
「危ない!!油断も隙も無いな!君は!!リア。」
「きゃっ!!もう、大丈夫なのにーーー。」
後ろから抱きかかえられた腕の中で、くるりと振り返って見上げると、リュートが少々怒っているのが分かった。
「大丈夫じゃない!!怪我をしたらどうするんだ?落ちたら、骨折どころじゃないんだぞ!それに、一国の妃が屋根に飛び乗って歩くなんて、前代未聞だ!!」
「怪我なんてしないよ・・・。これくらいの事で、ちょっと飛べば移れるし・・・。それに、ここは、奥まってて、誰かに見られたりしないし・・・。」
月涼の言い草に、顔を真っ赤にして怒るリュート。その顔で、流石に、まずいと思った月涼が謝ったのだが更に火に油を注ぐ。
「ごめんなさい。もう、『みんなの見てる前では、』しないから。ねリュート。」
「リーーーアーーーー!!!」
その声と共に月涼は、くるりと回され小脇に抱えられて、お尻をバチン、バチン!!と叩かれた。
「キャーーー!!痛っ!!止めて!!痛っ!!お願い!!痛っ!!許してーーー。」
涙目になりながら、訴えるがリュートは怒っている。先ほどまで驚いて腰を抜かしていたフルル達がその光景に笑い始めた。藍に至っては、呆れて見ている。
「もう、誰か!!助けてーーー。痛っ!!・・・藍!!フルルーーー。」
「リァンリー様、それぐらい、殿下に怒って頂かないと次が有りますので、お助けできません。」
フルルがクスクス笑って言う。
「ラーーーンってば。痛っ!!」
月涼は、フルルじゃ助けてもらえないと分かり藍を呼ぶ。その間もお尻を叩かれている。
「今のは・・・月が悪いよ・・・俺、殿下に怒られたくないもん。」
「もーどっちの味方なのーーー藍!!」
月涼の叫び声も空しく・・・リュートにその後さらに叩かれた月涼は、言い訳が止んでやっと下ろしてもらえた。そんな、状況を知ってか知らずかチビは、屋根から戻って月涼のベッドでスヤスヤと寝ている。
「チビーーー。お前のせいで怒られたじゃん!!」
こっそりぼやく月涼。それを見逃さなかったリュートが、月涼を抱きかかえて言う。
「君は、猫より目が離せない・・・。」
仕方なく、自分から口づけてご機嫌を取る月涼に、リュートは呆れ顔で許すのだった。
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