第5部 第4話 契りの儀式

3回目の衣替えが終わり、1日目の宴もたけなわとなって来た頃、フルルが月涼に声を掛ける。


「リァンリー様、そろそろ、夜も更けてまいりました。契りの間へ移りましょう。」


「えっは、はい。」


月涼は、俯きながら緊張してフルルの手を取る。立ちあがり、振り返るとリュートがにっこり笑って言った。


「すぐ、行くから。」


月涼は、頷いてその場をフルルと離れて移動を始めたが途中で立ち止まって、フルルの手をぎゅっと握る。


「だめだーーー!!覚悟はしていたけど・胸が爆発しそう!!」


「あの・・・リァンリー様。」


「ん?」


「心の声が漏れております。」


『はっ!!しまったーーー。』


「だって、フルル・・・やっぱり、怖いんだもん。あんなことするの・・・さすがに口づけは、慣れてきたけどさ・・・。」


「しっかり、学習なさいました。大丈夫です。後は、殿下にお任せになれば良いのです。」


「そうかも、知れないけど・・・。」


「だって・・・。」


「だっても、何もありません。ささ、先に、湯あみをして、衣更えです。行きますよ。」


しゅんとなって、トボトボとついてくる月涼を引っ張るように、連れていくフルルだった。


湯殿に入ると、普段と違い、薔薇の花びらが浮かべられており、香油の甘い香りが月涼の鼻腔をくすぐる。先ほどまでの緊張がこの香りで少し緩和され、つま先からそっと、湯につかっていくと花びらが舞うかのように、香りがより一層と広がった。


「良い香りでございますね。リァンリー様。」


「ええ。本当に。とても・・・。素敵な香りね。」


月涼は、フルルに促されて湯から上がると薄い衣を肩から掛けられ、薄絹の帯で軽く結われる。その後、薄化粧を施され最後にスッと紅を額に落とされると額に花が咲いた。


額に咲いた花の上に額飾りがつけられ、フルルが月涼の手を取り神女の待つところまでいざなう。


「お待ちしておりました。」


神女は、頭を下げて待っていた。


月涼は、神女の手を取り契りの間へと行こうとしたが、振り返ってフルルに抱き着いた。


「怖い・・・。でも、行かなきゃね・・・。ありがとう。フルル。」


「ええ。リァンリー様。大丈夫でございます。ここから先は、ついて行けませんが愛されてお戻りくださいまし。」


「うん。」


「それでは、参ります。よろしいですか?」


神女に声を掛けられ、再び手を取り月涼は、契りの間へ向かった。


部屋に入り、寝台までいざなわれると神女は、何も発することなく部屋を出た。


「ここで3日間過ごすのね・・・。」


シーンとした部屋で一人リュートを待つ月涼は、再び緊張に襲われて心臓が飛び出そうなほど、胸が高鳴り始めた。ドクン・ドクン・ドクン・ドクン・・・・。


『うわーーー止まってこの音・・・やっぱり、怖いよ…。フルル。あんな本のこと出来ない・・・。あれ?涙が出てきた・・・。どうしよう。』


寝台で下を向いてうずくまる月涼。


リュートは、月涼が気づかないうちにその前にいたのだった。


「リア。顔をあげて・・・。」


手を取り、その手を自分の頬に当てながら、月涼に優しく声を掛ける。


「怖い?涙が出るほど?」


コクリと頷く月涼に、近づきそっと涙を口づけで拭うリュート。


「大丈夫。」


抱き寄せて自分の膝の上に月涼を乗せてから、さらに深い口づけをするとそのまま、寝台へと倒された。


「まだ、怖い?」


「うん。心臓が鳴りやまない・・・。」


リュートは、そっと月涼の胸に耳を当てた。


「本当だね・・・大きな音がなっている。リア・・・でも、今日は、待てない気がする。」


そう言うと、もう一度深い口づけが始まる。


「お願い・・・少しだけ待って、このまま・・・抱きしめて。」


月涼がリュートの首に手をまわして、横になったままリュートに抱きついた。月涼の吐息がリュートの耳にふっとかかる。


「ああ。リア。」


リュートの肌の温かさを感じ、少しづつ緊張がほぐれ始める月涼。


「リュートも緊張してる?」


「当たり前だよ。緊張しているよ。やっと、一つになれるんだから・・・。」


再び、甘い口づけが今度は、月涼の首筋に落とされ、小さな花が咲く。


肩や、鎖骨に・・・すこしづつ増える花びらに、月涼が言う。


「くすぐったい・・・リュート。」


リュートは、クスクスと笑いながらも止めずに続けていく。


「可愛い・・・リア。もう、怖くない?」


「少し・・・少しだけになってきた・・・。」


そう言いながら瞳を見つめる月涼に、ゆっくりと重なっていくリュート。


「愛してる・・・。何度でも言うよ。君だけをずっと大切にするから・・・。怖がらないで。愛してる。愛してる。」


「うん・・・。うん・・・。リュート・・・。」


リュートの唇で咲かせる花が、月涼に咲き続ける。


月涼の心は、胸に咲かせられた花で、吐息が漏れるその頃には、すっかりリュートに溶かされ、恐怖心は消えていった。


そして、その身をその腕に任せて、夜が明けるまで花は咲き続ける。


月涼は、リュートから愛されることだけを一心に感じ、心からの喜びを胸に夜を過ごす。リュートもまた同じ思いで、月涼を抱くのだった。そう、3日間の契りは、二人の心をしっかりと結び、新しい門出となった。

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