第5部 第3話 婚儀・披露宴 2

国王が、大神殿壇上から杯を掲げる。


「ここに、二人の婚姻を祝福し国民に披露目とする。二人は、前に・・・。」


リュートが月涼の手を取り国王の隣に行き、国民に手を振った。広間の来賓たちは、立ち上がり拍手喝さいで二人を迎え、大神殿大階段の下では国民が歓喜で迎え、手を振って喜びの言葉を発する。


『おめでとうございます!殿下、妃殿下!!』と国民が歓声を上げ続けていた。そして、王城での披露宴中は、国民も祝いが続き、食事も大広場に配給されており大変な賑わいとなるのだった。


『こんなにも、民が喜んでくれるものなのか・・・。』その歓喜に、圧倒される月涼。


国が変われば、同じ婚儀でもこんなにも違うのか?とひしひしと感じるのだった。それは、来賓として客席にいた仲達や仁軌も感じていた。西蘭国や北光国は、皇后となれるものとのみ、正式な儀式があり、大臣たちの前で行われるが、そのほかのものは、後宮に入りだけで、勅旨で位が言い渡されるだけだ。青華国と比べれば、かなり閉鎖的と言わざるを得ない。


因みに、海南国は、後宮はあるものの規模は、とても小さく正妃を入れても5人までと決められており、国王が後宮を必要としないと判断した場合は、後宮は一時的に閉鎖される。そして、正妃以外でも望めば婚儀も披露宴も行われるのが一般的だ。


「仁軌さん、国が変わるとここまで違うんですね・・・。なんだか、西蘭がまだまだ、遅れた国なのだと思えてきます。」


「まぁ・・・文化の差もあるが、女性にとっては良い国と言えるのだろうな・・・。どの国にも一長一短があるのだろうが開けた国だな。」


酒の杯をくゆらせながら二人は、並んで座り語り合っていた。そこへ、藍がお酒を手にやってきた。


「仲達さん、仁軌さん、お酒足りていますか?」


「おーーー。藍か、一緒に飲むか。」


仁軌と仲達が藍を見て嬉しそうに言う。


「いえ、まだまだ、することが合って。それに、俺は、来賓じゃなないですからね。へへへ。」


「そうだったな。何の用事が残っているんだ?用事が終われば、少しぐらい付き合えるだろう?ペンドラムさんに言えば・・・。」


「そうなんですけどね・・・。この後、日が暮れたら、次に儀式に入る準備を手伝うんです。」


「ほーーーー?それは、なんだ?藍。」


仲達が興味津々で藍に聞いた。


「契りの儀式で、神殿奥間に二人が移るんですが、その部屋の準備に駆り出されています。なんせ、3日間の衣食を運ぶので・・・。」


「だが、神殿は神女しか入れないんじゃないのか?」


仁軌が藍に、不思議そうに聞いた。


「あーそれなんですけど、絶対に神女さんたちだけじゃダメとかではなく、入れる人ならなんです。神殿の奥間は、なんだったかな・・・神殿の石の力に負けると、体調がおかしくなるんだそうです。頭痛とか吐き気とか・・・とにかく、普通は、倒れてしまうそうです。」


「で?お前は、大丈夫だと?」


仲達も仁軌も首をかしげながら聞いた。


「へへへ。実は、以前、月になかなか合わせてもらえない時に、変装して潜り込んだんですけど、俺・・・平気だったんですよね。それで、今回、荷物運びって結構大変だからって・・・駆り出されて。」


「あーなるほど。それで、王后陛下が、お前を気に入っているのか・・・。」


仲達は、変に納得しながら聞いていた。そして、呆れながら仁軌が言うのだった。


「まぁ、どんな時もお前は、月涼の為なら必死ってことだな。まったく、大したもんだよ。」


和気あいあいと3人で、話し込んでいるとルーランが藍を探して、こっちに向かってきた。


「あーーー!いたいた!!探したわよ藍!!ペンドラム様が探していたわよ。」


「ルーラン!すぐ行くって言っておいてーーー。」


「分かった。早くね・・・。もうすぐ披露宴2回目の衣替えもあるからね!!」


ルーランは、手をあげて藍に言うとすぐ、くるりと背を向けて、帰っていった。


「じゃあ、また、用が済んだら来ますね。仲達さん、仁軌さん。」


「おう、頑張れよ。」


「はい。あっ次の衣替えは、月が西蘭国から送られた公女の婚礼正装ですよ。月のそんな姿。楽しみだな~。」


藍は、楽しそうに話してから、足早にペンドラムの元へ戻っていった。


しばらくすると、壇上に再び、月涼がリュートに手を引かれ現れた。


紅蓋頭をかぶり、顔は見えない。衣装は、紅地に金銀の鳳凰の刺繍が施され、遠目でも煌びやかなのが分かった。リュートも西蘭国から送られた衣装を着ており、リュートの刺繍は金のみで竜王図となっていた。国民の前まで来ると紅蓋頭をリュートがあげて、月涼の顔が見えた。髪は、金銀の簪で結い上げており、青華国では見ることのない、その西蘭国の衣装を国民が拍手で出迎えている。


「あーーー。綺麗だな。月涼・・・。それに、やっぱり、幸せそうだ。」


「本当ですね。こんな日が来るなんてなーーー。変な感じですね。仁軌さん。出会った頃の月涼から考えると・・・絶対になさそうな、そんな事が起こっている感じですよ。」


「だな・・・。この国で暮らすなら俺も、珠礼に婚礼衣装着せてやらんとダメだな。ハハハハハ。」


少し、苦笑いの仁軌だった。そんな仁軌を横目に通りかかった、フルルと目があった仲達は、照れくさそうに頭を下げた。フルルもまた、頬を赤くして、ペコっと頭を下げると足早に去っていくのだった。

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