第5部 第2話 婚儀・披露宴
いつの間に眠っていた月涼は、ガタンという音で目覚めた。
中央の杯が置かれた台が地下に、ズズズと音を立てて下がっていく。
入ってきた扉が開くとばかり思っていたが、全く違う壁が動いて扉が現れて開くのだった。
月涼は、『この向こうに進めと言う事なのだろうか?』疑問に思いながらも、薄暗いその廊下を進み、突当りまで来ると神女が待っていた。
「おめでとうございます。妃殿下。それでは、婚儀披露のお召替えを致しますのでこちらへ。」
そう言って、月涼の手を引いて次の部屋へといざなわれた。
部屋に入ると、フルルたちが、嬉しそうに待っていた。
「おめでとうございます!!妃殿下。」
喜びの涙声で、フルルたちが祝ってくれる。その声につられて涙する月涼が、うわずった声で答える。
「ありがとう・・・フルル。ルーラン、ルキ、ラキ。」
「さぁ、国王陛下と王后陛下がお待ちかねです。お召替えを始めなくては!!」
ルーランとルキ、ラキがいそいそと婚儀衣装箱を移動させて蓋を開ける。一同は、中にある衣装を垣間見ただけで、うっとりする美しさだった。
青華国の婚儀衣装は、男性は、青地に金刺繍の龍王が施され、ペリドットを中心とした宝石が、散りばめられている。頭頂の冠は、金にペリドットだ。女性は、青地に銀刺繍の鳳凰と百合の花が施され、金剛石がちりばめられる。頭頂の冠は、銀に花水晶という紫の水晶が埋め込まれている。
「ああ~。なんと・・・・・・素敵な衣裳でございましょう・・・。海南国とは、また違った・・・重厚な美しさ。妃殿下に、とても良く似合いそうでございます。」
4人は、感嘆の声を上げて誉めそやす。そして、フルルたちは、手際よく月涼に衣装を着せ、化粧を施していく。その衣装を着た月涼は、煌びやかであるが、上品で洗練された雰囲気を醸し出していた。最後に部屋を出る前に、フルルが冠の上から華刺繍のベールをふわりと掛ける。
「此のベールは、リュート殿下が取るまで・・・そのままです。妃殿下。」
「ええ。ありがとう。フルル。」
フルルに手を引かれ、奥神殿控室から出ると右手にある階段を下り、中神殿の地下へ行く。月涼が地下控室に入ると、すでにリュートが待っていた。
「リア・・・。」
月涼の手を取り声を掛けるリュートの顔は、満面の笑みだ。
「はい。」
そんなリュートとは正反対に、緊張で顔が強張る月涼。手は、どんどん冷たくなっていく。その手の冷たさに気づいたリュートは、月涼を引き寄せて抱きしめた。
「大丈夫。・・・私に会いたかっただろう?リア。」
月涼は、その言葉にコクリと頷いてリュートを見上げる。
「ああ。まだ、ベールを取れないのが辛いよ・・・。さあ、そのベールを早く、上げるためにも行こう。」
月涼は、また、黙って頷いて、リュートの手をしっかりと握った。この時の月涼の胸は、早鐘を打っていて、声を出すのも怖いぐらい緊張していたのだ。
『どうしよう。ドキドキして声にならない。リュートを見たら、昨日よりもっと緊張してきた・・・。』
そんな月涼の緊張がリュートの手に伝わる。
「さあ、顔を上げて・・・リア。」
リュートがしっかり月涼の手を取り、歩を進めた。
二人は、国王夫妻が待つ中神殿へ上がる階段の前に立つ。そこで、再び向かい合って拝する。リュートは、右手を月涼は、左手を顔の横に挙げて、目を瞑り、深呼吸してから、最初の誓いの言葉を発する。
『神と父母の名のもとに、青華国第2皇子 リュート・アルディージャ・バラハン、西蘭国公女 趙涼麗は、本日ここに、婚儀の儀式を受け入れる。』
誓いの言葉が終わると、階段を上り再び拝し、緋毛氈の敷かれた上を歩き、いよいよ中神殿祭壇へと進む。真ん中あたりまで来ると二人は、立ち止まり、リュートが先に一人で祭壇の上に上がり、月涼に向かって立つ。月涼は、神女から渡される赤い布の上に乗せられた、金杯と銀杯を持ってから歩を進める。
『落としたらどうしよう・・・。予行で一度しているけど、手が震える・・・。深呼吸して、リュートだけを見よう。』リュートの前までが、とても長い距離に感じる月涼。
そんな月涼を愛おしそうに、手を差し伸べて待つリュートだった。
リュートの前まで来た月涼は、金杯銀杯を祭壇に掲げて、リュートの手を取って祭祀に向かい、司祭が前に立つ。司祭は、金杯銀杯を聖水で清めた後、神酒を注ぎリュートに銀杯を月涼に金杯を用意する。
「それでは、神の御前にて婚儀を始めます。青華国第2皇子 リュート・アルディージャ・バラハン殿、汝は、西蘭国公女 趙涼麗を未来永劫の伴侶とし、生ある時のすべてを共に喜び、慈しみ、どのような困難が有ろうとも愛することを誓いますか?」
「はい。誓います。」
「では、西蘭国公女 趙涼麗殿、汝は、青華国第2皇子 リュート・アルディージャ・バラハンを未来永劫の伴侶とし、生ある時のすべてを共に喜び、慈しみ、どのような困難が有ろうとも愛することを誓いますか?」
「はい。誓います。」
「では、お互いの杯の神酒を伴侶に与えます。」
リュートが月涼のベールを上げると、月涼は、目を潤ませて、緊張の面持ちでリュートを見上げた。
「リア・・・。」
コクリと頷いてリュートを見つめる月涼。
神女が銀杯をリュートに渡すと、その杯の神酒をリュートが口に含むみ、月涼の口へと運び唇が清められる。次に月涼が金杯を受け取り、神酒をリュートの口へと運んだ。司祭が、二人の唇を確認し金杯銀杯をもう一度聖水で清めて祭壇に戻す。
「ここに二人の婚姻を認め神の祝福を与える。次に、国王並びに王后より、二人に祝福を与えよ。」
司祭が手を挙げると鐘が打ち鳴らされ、国王と王后が中神殿へ入場してきた。リュートの隣に皇后ソニアが立ち、月涼の隣に国王ザンビスが立つ。お互い向きなおり、頭を垂れ祝福の首飾りが、与えられ頬に口づけをされる。そして、そのまま大神殿へと移り、来賓と国民の前で国王が、祝福の儀が完了し、めでたく婚姻したと告げる。
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