第5部 第1話 婚儀の始まり 神殿儀式
青華国王家の婚儀は、神殿儀式より始まり契りの儀式で終わる。神殿儀式で1日、婚儀、披露宴で1日、その後、契りの儀式で3日の全工程5日で終わる。
リュートと月涼は、夜が明けるとともに、白地に金・銀刺繍(男性が金、女性が銀)の蔦柄の神殿装束に身を包み、この日だけは額飾りを外して、金、銀の冠を頂く。二人で手と取り合い大神殿の大階段を上り、大神殿入り口前に有る大広間で、立膝をして、太陽に向かい来光礼拝をする。
礼拝が終わると神女たちにいざなわれ、大神殿、中神殿、奥神殿へと進み清めの泉にて、冷水に浸かり体を清める儀式へと移る。
清めの泉の前まで来ると、神女たちが手際よく冠を外し、神殿装束を脱がせる。肌装束だけになった二人は、向かい合って拝し手を取り合って、清めの泉に入っていく。
その泉の深さは、リュートの身の丈より少し深い。頭の先まで清めるための深さだ。
『う。冷たすぎて・・・心臓が止まりそう・・・。』つま先を付けただけで、そう思う月涼を他所にリュートは、感極まって月涼を見つめている。
腰から胸まで入水してきたら、月涼が溺れないようにリュートは、抱きかかえて最後まで入っていく。
「息を止めて、一気に向こうまで行くからね。」
「はい。」
その合図で、ちゃぷんと頭まで水の中に入った。水の中で、息を止めたまま・・・うっすら目を開けて、リュートを見る月涼。
『なんだか変な感じだ・・・本当に結婚するんだな~。この人と・・・。結婚なんて、一生することないって思ってたのに・・・。』そんな風に思いながら、リュートを見ていたら、リュートがふっとこっちを見て笑う。そして、口づけをしてくるのだった。
泉から上がると神女たちが、新しい肌衣を持って待っていた。二人とも、その場で生まれたままの姿で、肌衣にくるまれて、それぞれの部屋に入っていく。少し不安になった月涼は、振り返ってリュートを見た。
「リュート・・・。」
「リア。大丈夫・・・。明日の朝、会おう。」
その言葉でも、やはり不安そうな月涼の瞳を見て、リュートが神女に言った。
「すぐ、済む。少し待て・・・。」
『はい。殿下・・・それでは、手短に。』と言って下がる神女たち。
リュートが月涼に近寄り、抱きしめると月涼がリュートを見上げて言うのだった。
「ごめんなさい。儀式を止めてしまった・・・。」
「大丈夫・・・。離れるのは・・・今日だけだ。明日からずっと隣にいる。フフ。それに、会えない時間が愛おしく思えるだろう?君だって?」
そう言って、自分を和ませようとするリュートに、月涼は、初めて自分から口づけた。
「ありがとう。リュート。」
照れながら笑う月涼に、感極まったリュートがもう一度口づける。
「離れたくなくなるじゃないか・・・。」
瞳が潤む月涼の頬に手を当て、額同士をあててから、リュートがそっと離れて言う。
「明日まで・・・。」
頃合いを見て、下がっていた神女たちがそれぞれの部屋へといざなう。
部屋前の入り口で、ペリドットが散りばめられた柄の短剣を渡された。これは、リュートも同じである。
神女が短剣についての説明を始める。
「こちらは、真実の短剣でございます。この部屋で一日を過ごし、この婚儀を取りやめにする場合にお使い下さい。我が国の神は、強制される婚儀を認めません。婚儀を取りやめる場合、この短剣で、自らの血を数滴、部屋の中央にある杯に、溜めてください。血を確認した時点で、婚儀は取りやめとなり、扉が開かれます。婚儀継続の場合は、翌朝の日の出と共に扉が開けられます。」
月涼は、短剣を見ながら・・・神女に質問した。
「今まで、拒絶された方はいるの?」
「お答えできません。・・・それでは、中にお入り下さいませ。」
答えてくれるわけないか・・・と思いながら促されて部屋に入る月涼。
部屋には、寝台と小さな椅子と机、その上に蝋燭が有り、中央には入り口で説明された杯が有る。窓は、天窓だけの何もない部屋だったが、床も壁も水晶で出来ていた。神女が月涼に椅子に座る様に促して髪を整えながら言う。
「食事は、ございません。水分は、聖水が常にあちらの壁から流れていますので、この聖杯でお飲みくださいませ。」
神女は、聖水の場所を示したあと、月涼の着替えを手伝うと直ぐに部屋から出て行った。
扉は、中から開ける仕組みではないらしく、重く響く音ともに閉まった。
一人になった、月涼は、日差しが差し込む天窓を見上げながら、予行の時に、言われたリュートの言葉を思い出していた。
『この部屋は、一人きりになり、今まで自分の身に起きた、良いことも悪いことも全て振り返り、受け止める為の場所だ。君が抱えている全てを私に、・・・すべてを受け止めるから。』
「リュート・・・。私で良いの?」
一人きりの部屋で呟く月涼。
その部屋での長く短い一人の時間は、月涼の今までの生き方を全て洗い流すかの様だった。そして、最後に思えたのは、早くリュートに会いたいであった。
一方リュートは、先ほどの月涼からの口づけの前までは、婚儀取りやめが有るかもしれないと、一抹の不安を覚えていた。だが、あの口づけで、部屋から出れるのが待ち遠しくて仕方なかった。
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