第4部 第15話 北光国の行く末

北の艦隊には、すでにソニアが乗り込んでおり、仁軌の到着を今か今かと待っていた。何故ならこの作戦に仁軌が加わらなければ、摂津港を落としても、形成がひっくり返せない可能性もあるからだ。


重慶が範安を抑える際についた兵は、仁軌が育てた兵であり、仁軌が味方に付くことで得た兵だ。そして、城内部の仁軌に恩義のある宮廷軍部だ。それが、仁軌がいないとなると話が変わると言う事だ。


「遅れて申し訳ない。」


そう言って、乗り込んで来た仁軌を出迎えたのは、王后ソニアだった。


「遅い!!待ちくたびれたぞ。仁軌!」


突然、目の前にいる王后に、仁軌は面食らっていた。まさか、王后が乗り込んでいるとは思ってもみなかったからである。


「王后陛下・・・なぜここに?」


「はっ?妾が共に指揮するからじゃ!!」


王后の態度でこの様な状況に、こなれて居ることが良く分かったが、仁軌の中には疑問が一つ。


「???申し訳ございませんが、婚儀に間に合うのですか?」


「間に合わすのじゃ!!何をたわけたことを!!この霧の間に乗じて先に、北光国の軍艦を全て、壊滅するぞ!!仁軌。ハハハハハ。」


絶句する仁軌を尻目に、高らかに笑う王后ソニア。仁軌は、そのソニアに振り回されながら、今回の指揮を共に執ることとなった。


そして、その頃、重慶は、仲達が到着する頃合いで、予定通り範安を落としたと、偽の情報を北光国の帝に、一報を入れて騙し、西蘭国の加勢を受けて首都に攻め入る。摂津港からは、青華国の北の艦隊が上陸し、北光国首都を挟み撃ちにした。重慶は、父である北光国帝に城の明渡し要求をし、北光国の最西端にある元武城に隠居させ、東宮も廃位することに成功したのだった。


この緻密な作戦により、たった1日と少しで、無血開城を成し遂げたのである。


全ては、月涼が描いた絵であった。そして、この後、5年間は青華国の従属国として北光国は、青華国からの政治介入を受けた後、独立し、国名を桜花国とし、初代国王として重慶が正式についたのであった。


重慶は、国名を変えるまでの5年間で、青華国と北光国を行き来し大規模な道路を敷き、国境整備や物流に力を入れ、民の暮らしを豊かにした。もちろんこれに、仁軌が一役買ったのは、言うまでもない話である。


時は、さかのぼり・・・艦隊の中では、ソニアの掛け声で宴会が始まっていた。


「皆の者!!こちら側の負傷者は、皆無じゃ!!ご苦労であった。さぁ、盛大に飲むが良い!!2日後には我が息子の婚儀ぞ!!その祝い酒でもある!!」


船上ではこの掛け声と共に唄え踊れの大騒ぎだった。何せ、久しぶりの戦いであり、普段の訓練とはわけが違い緊張感は、凄まじいものだったからだ。


「ソニア王后、帰城しなくて良いのですか?」


宴会の最中、仁軌が聞く。


「うむ。最初の乾杯の音頭だけじゃ!!帰るぞ!!仁軌。其方の、愛しいものも待っておるしのう?」


「はっっ!!ですが、間に合うのですか?」


「何とかなる!!神殿の儀式で始まる故、それだけで、1日使うのがわが国の婚儀じゃ。それには、当人しか入らぬ。我の参列は、その後の婚儀と披露目の祝福の時だけじゃ!!行くぞ!仁軌。」

『なんだか、この人を見ていると月涼を思い出すよ。』と思う仁軌だった。


艦隊から降り、早馬を乗り継ぎ、ソニアと仁軌が帰城したのは、婚儀当日であった。


『王后陛下ご帰還!!』取次ぎ兵が鐘を鳴らして盛大に合図する。


月涼とリュートは神殿の儀式に向かっていた為、国王ザンビス、自らが出迎えた。


「ソニア、大儀であった。どうじゃ?楽しかったか?」


「陛下・・・。それは、もう。久しぶりの艦隊・・・船の上は、楽しゅうございました。フフフ。」


そう言って、ザンビスの首に手を回すソニア。その行動を分かってた、王は、すでに、人払いをしていた。


「陛下・・・。ほんの少しの間、離れましたが、寂しかったですか?」


そう言いながら、陛下に口づけをして膝の上にいるソニア。


「ソニア・・・。其方が言うことを聞かぬのは、分かって居るが・・・今回は、艦隊に乗るほどでも無かっただろう?息子の婚儀に間に合わなかったら・・・どうするつもりじゃった?」


ソニアは、陛下の口を人差し指で押さえて、笑って言った。


「フフフ。妾が間に合わなかったことが?」


「全く、いくつになっても・・・其方は、変わらぬ・・・。困ったやつじゃ・・・。」


呆れながら苦笑いするザンビスだった。


「さて、リュートたちは、神殿に向かった。そろそろ、用意して、客人たちの出迎えもせねば・・ソニア。」


ザンビスの言葉を無視して、膝の上から降りないソニアが微笑んで言った。


「その前に・・・。湯殿へ参りましょう。・・・陛下。」


「は?今からか・・・。」


「ええ。それからでも、間に合いまする故・・・。このまま、連れてって下さいませ。」


ソニアの熱い口づけに負けるザンビスは、仕方なく湯殿に向かい、その後、婚儀に向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る