第4部 第8話 求愛

月涼がリュートに連れられて戻ってきたころ、仁軌は、華土から無事にテスタまで戻って来ていた。


珠礼の容態があまり良くなく、首都までは無理だった為、テスタの病治院に駆け込んだのだった。その病治院で事態の報告を仁軌は受けていた。


「そうか・・・仲達は、一時帰国したのか・・・。」


「はい。こちらがお預かりした書簡です。お納めください。」


連絡係から書簡を受け取り、確認すると今回の事の顛末が詳細に記されていた。


読み終えたころ珠礼が目を覚ました。


「じ・・・仁軌様。」


「珠礼、目覚めたか?気分はどうだ?」


「はい。」


涙を溜めて、こらえながら答える珠礼に仁軌が言った。


「苦労を掛けたな・・・。すまぬ。早く元気になってくれ。」


コクリと頷く珠礼の額に、そっと、接吻する仁軌だった。



一方、部屋に戻った月涼は、フルルの泣きながらの叱責に、耐えていた。横でリュートが笑いながら見ている。


「どれ程、心配したと思っているのですか~!!お体だって、まだまだ、不安定な状態ですのに!!」


「ごめん、フルルーーー。ごめんってば。」


「いいえ!!許されません!!王后様だって、大変心配なされていたんですから!!」


フルルは、こう言っていいるが王后ソニアは、何とも思っていないだろうとリュートは思っていた。心配な振りだけはしていたと思われるが、数々の前歴を持つ彼女は、城では有名だったが、他国からついて来たフルルが知るはずもなかった。


「フルル。もうそろそろ良いかな?」


リュートがフルルに言いフルルたちは、まだ、言い足りないが仕方なしに部屋から退出した。


「殿下・・・。ごめんなさい。」


「リュートで良い。殿下とは呼ばないでくれ。私は、これから君をリアと呼ぶから。」


「リア?」


「そう。君は、いろんな呼び方があるだろう?ずっと考えていたんだ。だから、私と二人だけの時は、リアと呼ぶよ。私だけの人だから・・・。」


ふふっと笑う月涼に、リュートが微笑み返した。だが、微笑みの後、さっきの笑みが嘘かの様に、かなりのお説教が始まった。どんなに焦って、馬を休ませずに帰って来たかや、現場についてすぐに、突入して連れ帰りたかったかなど・・・さっきのフルルよりネチネチと言い始めた。


言われても仕方ない月涼は、『フルルのお説教が終わったばかりなのに』と頭でぼやいていたが、やっぱり・・・黙って聞くしかなかった。


「だいたい君は、私以外に攫われてはいけない!今回は、藍が機転を利かせて、ペンドラムと事前に、打ち合わせていたから良いようなものの・・・。そうでなかったら、今度は、重慶が北光国に、攫ってたかもしれないんだぞ!」


「で、でも、重慶は、手荒い事はしないと思うけど・・・。」


「なっ!君は、重慶とは、どういう関係なんだ?」


リュートの態度が、嫉妬なのだと分かった月涼は、クスリと笑って、当時の出来事を話した。


「重慶は、西蘭に滞在していた頃、よく釣りに出かけました・・・。それと、琴を教えてもらったり・・・。」


重慶と仲良く遊んだ頃の事を言えば言うほど、リュートの眉間が狭くなるのを見て、しまったと思う月涼だったが、時すでに遅しだった。


リュートの顔が月涼の前まで来ていた。


「うわっ!近いですーーー。近いですったらーーー。」


「何がだ!」


「いや、だから、顔が・・・。」


後ずさろうとしたら、後ずさった先は、寝台でそのまま押し倒された。


月涼が咄嗟に、口を手で押さえて隠した。


フッと笑ってリュートは、月涼の髪をそっとかき分け撫でた。じっと、月涼を見つめるその紫の瞳は、吸い込まれそうに綺麗に見えた。


そのまま、額飾りに唇を落とすリュートに、月涼が言った。


「ずるいなぁ・・・。そうやって、いつも私の上にいるんだから。」


「だめか?」


フルフルと首を振り、リュートの頬に手を当てた。月涼の手に自分の手を重ねるリュート。


「愛してる・・・。」


「本当に?愛されるほど過ごしてないと思うけど?」


フフフ。ちょっと笑ってごまかす月涼。


「君が分かって無いだけだ。ずっと、好きだった。あの時から・・・。薔薇園の中に佇む君と、出会ったあの時からね。綺麗な伽羅色の髪をなびかせて、薔薇の妖精かと思えたよ。」


「妖精?私が?」


「ああ。」


「本当に?」


静かに時間が流れ見つめあう二人。


ゆっくりと、リュートが月涼に口づけ、もう一度見つめる。


「ちゃんと言ってなかったね。リア・・・愛してる。結婚してくれ。」


リュートを真っ直ぐ、見つめながらも不安そうな月涼。


「私は、・・・・・・。」


「どんな事が有っても、君のすべてを受け入れて守り続けると誓うよ。」


奏との別れを思い出し涙がぽろりと頬を伝う。


リュートは、月涼の涙を唇でぬぐいゆっくりと口づける。


長く、深い口づけが月涼の心を優しく溶かしていく。


唇が首筋を伝う・・・。


「君が欲しい・・・駄目かな?」


そっと耳元で囁くリュート。


「えっ何が?」


くすぐったそうにして、言う月涼の言葉で、せっかくの雰囲気が壊れたのは言うまでもない。


悶絶寸前のリュートだったが、婚儀までの我慢と思いとどまり、月涼をくすぐって笑わせた。


部屋から笑い声が聞こえるのを、確認したペンドラムがノックして、声を掛けた。


「リュート様・・・お入りしてもよろしいでしょうか?」


ニコニコしながら入ってくるペンドラムに、なんだかちょっとムッとしているリュートだった。



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