第4部 第7話 夜市 3
倉庫に連れてこられた月涼は、まず、奏と話をすることにした。
「奏・・・。私がしてきたことを月涼として生きた日々を無駄にするのか?陛下は言わなかったのか?」
言い返す言葉の無い奏に重慶が口を挟む。
「そんな、一刀両断の様な言葉を言うな月涼。ここまで来たやつに・・・。」
「口を挟むな重慶!!私は、素直に応じてここにいる!私の決意として言うならば・・・奏、一人で来たならば、顔を見ることもなかった。」
月涼が目を見開いて重慶に言い放った。
重慶は、やれやれと言わんばかりに腕を組んで引き下がった。
「涼麗。私と共に歩む気持ちは、微塵もないのか?」
「奏・・・。子供の時からずっと傍にいた。ずっと続くと思って、過ごしてきた。奏が命を狙われる度に、恐怖と悲しみに暮れた。どうして?って思いながら守ってきた。貴方の命を!笑顔を!絶やしたくないと守ってきた。」
「じゃあ。何故?急に離れるんだ?病気の事だってどうして・・・隠してたんだ?」
「だから・・・。私が傍にいれば、いつまでも貴方は、貴方のまま。こうやって、無謀な行動を起こしてしまう。誰かに守られるのが当たり前に・・・。病気は、私の問題・・・隠してきた覚えはない。私が月涼としていることで、分かろうと思えば分ったはず。」
「涼麗・・・。君の心に私は、居ないのか?ずっと・・・私は、涼麗だけを愛している。」
「ズルいよ。奏。最初で最後の言葉で言うなんて。」
月涼の瞳からスーッと涙が零れ、唇を震わせる。
「最後じゃない!!帰ろう!!西蘭国へ。それがだめなら、違う国に行ってもいい!!共に生きれるなら。」
奏がそう言って、月涼を抱きしめようとしたが、月涼は、奏の手を突き放した。
「私が、最初に言った言葉を無視しないで!!」
その時だった。
バン!!バン!!と大きな音で扉が開けられた!!
「リュート殿下?」
月涼の消え入るような声を聴いて、フッと笑いゆっくり歩み寄るリュートは、威厳に満ちていた。
「あまり、心配させるな。もう、体力が無いだろう?リァンリー?」
月涼の手を取り、フワッといつもの様に抱き上げる。
「西蘭国東宮殿下、我妻になるものです。これ以上は、許しません。連れ帰ります。」
「待ってください!!!話が終わっていません!!」
奏が食い下がるがリュートは、余裕の笑みで返した。
「いいえ。終わっていますよ。彼女の表情を見てどうして、理解してあげないのですか?」
月涼は、黙ってリュートの胸の中に顔を臥せた。
「さあ。帰りましょう。皆、心配して、待っていますから。」
コクリと頷く月涼。
「それから・・・。重慶!!友として許すが・・・重罪だ。このまま、城へ来てもらおうか。」
コッソリ抜け出して逃げようとした重慶だったが、そこは、見逃してもらえなかった。
「バレてたのか・・・。だけど、まさか、俺の探し求めた人物が、リュートの許嫁とはな。残念で仕方がない。それに、お前の登場で口説き損ねた・・・。」
ぼやきながら、リュートの近衛に連れて行かれる重慶だった。
奏は、悔し涙を流し、地面に膝をついて、リュートに抱かれて立ち去る月涼を見ていた。
「殿下・・・。このような無謀な行動は、これが最後にしてください。殿下を支えてきた全ての人の為にも。月涼の思いも分かってあげてください。」
仲達が奏を起こして言うのだった。
「お前に・・・お前に何が分かるんだ?私と涼麗の何が?」
仲達は、月涼から聞いた気持ちを奏に伝えた。
選秀女の時に病抜きで、殿下の傍にこの先もいるかどうか考えた事。
後宮に入ってしまえば、後宮の中での戦いが有り、殿下を今までの様に守れない事や反対に足を引っ張りかねない事。
一人の女性だけを見てはいけない後宮で、殿下を本当に愛していけるのか?
今までの形でなくなる事への不安と恐怖を抱えて過ごせるのか?
全て、考えて出た答えは、殿下から離れることだったと。
「月涼は、普通に育てられた公女ではありません。後宮という籠に入れるとは思えません。」
「仲達!!それは、この国でも同じではないのか?」
仲達を睨みつける奏に、諭すように話しを続ける仲達。
「違います。この国は一夫一妻制です。それに女性の地位が高い。月涼は前からこの国に、留学の希望もしていました。もともと西蘭国より性に合っているのです。それに、リュート殿下はそういう月涼を理解しています。今度も本来なら、もっと早く月涼を連れ帰れました。外で待っていたんですから・・・。」
「フッハハハハハ。そうか・・・。余裕なんだな。私とは比べ物にならない・・・あの堂々と登場してきた姿・・・。そうだな。」
天を仰ぐ奏。
「殿下・・・。」
「仲達。帰ろう。悪かったな・・・。」
「はい。それと、月涼から言伝があります。『来世では、貴方が守ってくれますか?。』」
『ああ。・・・涼麗。』
奏は、そのまま無言で仲達と共に帰国した。
仲達は、婚儀出席のため、奏を送り届けた後、とんぼ帰りすることとなったのは言うまでもない。
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