第4部 第5話 夜市

仲達は、奏と重慶の関係を仁軌に説明したが、風流人で知られていた重慶に何があったか分からない以上、奏をどの様に扱うつもりかの検討がつかなかった。


身動きの取れない状況に、仲達はいら立ったが、奏の命を危険にさらしてしまうわけにいかず、そんな仲達に、仁軌が提案する。


「仲達、東宮殿下を直接助け出そうとすれば、公になりすぎる。それならば、重慶もこちら側に誘い出すのはどうだ?もともと、婚儀出席扱いにしようとしていたんだ、正式に北光国に招待状を出してもらい、近いと言う理由で名指しするのは、どうだろうか?」


「仁軌さん・・・。これ以上青華国を巻き込んでは・・・」


「どのみち、慶事を壊しかねない状況なんだぞ。今、事を荒立てるか?後になるかだ。しかも、もし、救出できなければ、月涼は負い目を感じてしまう。今は、出来る事を考えねば。」


この状況は、リュートも手にしており思案にあぐねていた。ただ、重慶についての情報は、リュートの方が持っていたのだ。


重慶は、諸国遊歴の折、青華国へも滞在していた。中央大陸の各国の状況や文化についての見聞を、自分の国にも取り入れ、国土が痩せていてもできる農耕や治水技術で、民を豊かにしたいとリュートに語っていたのである。


『地盤が固まってきたのだろうか?まだ、早い気もするが・・・。』リュートはつぶやいた。


そんな、状況の中、一通の書簡が月涼に届いていた。差出し国は、西蘭であったが重慶が奏に、差し出しを書かせた書簡だ。


「書簡が届いております。リァンリー様。西蘭国の東宮殿下からの様です・・・。」


フルルが届いた書簡を月涼に持ってきた。


「お祝いかしらね?」


月涼は、苦笑いして答えた後、その書簡に不可思議な点があることに気づいていた。差出の字は奏だが、書簡そのものが西蘭の物では、無かったからだ。案の定中身は、字が違っていた。


『話がしたい。奏を預かっている。夜市の日、アルトリア噴水で会おう・・・重慶。』


フルルは、月涼の変化に気づき声を掛ける。


「書簡には何か嫌なことでも?こう言っては、何ですが・・・東宮殿下も早くお諦め下さらないと。」


「大丈夫よ。フルル、体調を気遣ってくれてるのと夜市があるから、それを楽しんだらと書いたあるわ。」


そう言って月涼は、フルルに夜市について聞いてみた。


「ねぇ、フルル、この国の夜市は有名なの?」


「はい。そう、伺っておりますよ。確か・・・明後日?だったかと。月の初めの一の日でございます。」


「行ってみたいんだけど・・・。」


「そうですね。私たちも初めてですし、ご一緒出来ましたら、嬉しいですわ。リァンリー様。王后様に許可を取ってみますか?」


「内緒でいけないかな?」


「それは、無理でございます。体調の事もございますし、警備のものを撒けるとでも?」


「だよね・・・。じゃあ、楽しめるように・・・離れて警備してもらうのは、できるかな?」


「それなら、お願いできそうです。早速、行って参りますわ。ルーラン、ルキ、ラキ・・・後のことお願いね。」


そう言うと、フルルは、足早に部屋を後にした。


その頃、国境警備守の屋敷内は、すでにもぬけの殻であったが、仲達たちが気付くのは、夜市での事件が起きてからであった。


夜市に繰り出した月涼たちは、自分たちの国に無いものが所狭しと市に出ており、目を輝かせてみて回った。宝石の多い国だけあって、その宝飾物もかなりあった。


「男性顔負けの麗人であるリァンリー様でも、この麗しい、宝飾の前では顔が綻んでいますね~。」


フルルたちが月涼を茶化しながら、宝飾を手に取って、喜んで見ていた。


月涼は、夜市に来る前に、噴水の位置を確かめていたので、少しずつ噴水の方面に移動しながら夜市を楽しんでいた。水の音が聞こえ噴水を確認した後、フルルたちにバレない様に抜け出す。


藍には、先に指示を出していた。


『いいか?絶対、出てきちゃだめだぞ!藍。もし、私に何かあれば、ペンドラムに連絡するんだ!一人で助けようと思うなよ!』

『分かった!月!女装しても良い?』

『藍・・・まあ良いけど・・・。遊びじゃないからな~。』

『やったー。こっちの衣装って可愛いんだよ。』


こんな呆れるような会話の後、合図するまで絶対に隠れるように事前に言い置き、噴水を警戒させておいた。


噴水の前で一人、佇む月涼。月あかりに照らされ、伽羅の髪が風にフワッとなびいた。


「涼麗・・・。」


現れたのは、奏だった。


「ばかね。どうしてこんな事するの?」


「そいつは、可哀そうな言い草だな・・・月涼。」


そう言って、奏の後ろからもう一人の人物が現れた。


「重慶?重慶なの?」


「あー久しぶりだ。本当に女だったんだな。それに、少し声が違うが・・・。」


「治療を受けたら男の声色は、出なくなったから。」


「治療?お前、どこか悪かったのか?」


「重慶、病気の事を話すと長くなる・・・。奏と来た理由は?」


「一つは、人助け・・・。直接、二人で話ができるように。もう一つは、血を見ずに政変を起こす。策士であるお前の知恵を借りたい。西蘭にいた、隠れた策士さんにね。」

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