第4部 第4話 国境 2

輪は、奏の居場所を確認した後、馬車のあった場所に手掛かりを残して、仲達に手助けを頼もうと先に青華国へ入国することにした。


一方テスタの街についた仲達、仁軌一行は、華土の状況と北光国側の国境の状態を聞きつけていた。


「こちらから、華土に入ると戻ることが困難ですね。仁軌さん・・・。」


仲達が心配そうに仁軌に言った。


「ま、逆に言えば、月涼の案が効いたってことだな。俺は、ここから動かなくても向こうが、先に動いたわけだ。安里たちも今頃、春恩川について乗船したころ合いだろう。その連絡さえ付けば、何もせずに撤収できる。後は、東宮殿下の居場所だな・・・。」


「そうですね。この街で会えるのが、一番良いのですが・・・。」


そんな、やり取りをしていると、鳥便を探す不審な者がいると連絡が来た。


とりあえず、その者を捉えよと伝令したところ、すぐさま引き連れられて来た。


「輪!!」


連れてこられたのは、輪だった。


「仲達様~!!」


「殿下は?どうしたのだ?」


「それが・・・北光国側のものに殿下の素性が。」


「それで、どうしたのだ!?」


「一人で戦うわけもいかず・・・・・・殿下の居場所を確認して、こちらに来ました。」


項垂れる輪に、仲達が肩を叩き慰めた。


「いや、賢明な判断だ!輪。それで、殿下の居場所はどこだ?」


「はい。国境警備守の屋敷です。それと・・・殿下の顔見知りの様で・・・。はっきりと話は聞き取れなかったのですが。お命の危険までは、行かないような感じでございました。」


仲達は、その人物が誰か心当たりもなく不思議に思っていた。隣で聞いていた仁軌がとりあえず北光国側の密偵と連絡を取って、状況を確認してもらうほうが良いと提案してきた。


「闇雲に動いて、その屋敷まで行くよりも状況を確認すべきだ。顔見知りだと言うなら尚更では?仲達。」


「それも、そうだ。まず、その人物が誰か知らなければ手の打ちようが無いな。」


急ぎ、鳥便で密偵と連絡を取り、その屋敷と屋敷にいる人物を調べるように伝令を出し、輪に、これまでの事を聞いてみた。


「殿下は、涼麗様が青華国へ嫁ぐと聞いてすぐ、私を伴って出国しました。止めようとしたんですが・・・聞いてもらえず。私は、後を追うように着いて来たんです。」


仲達も仁軌も予想通りの行動だと思うのだった。


「これでは、先が思いやられるな・・・。禅譲どころじゃないぞ。仲達。」


「そうですね。この件でひとつ、大きくなって欲しいものですが・・・。」


普段、奏の味方しかしない輪でも今回の件では、肩を持つわけにはいかないと思っていた。


3人は、連絡を待つしかなく、出来ることは、今後について話しぐらいだった。


「仁軌さん、安里様達がこちらへ着いたら、本当に亡命して暮らしていくんですか?」


「そうだな。安里たちには、悪いことをしたが・・・そうするしかあるまい。皇后陛下も言ってたしな。しかし、なんだ・・・この国は、預言者みたいな事を言う者が、多い気がするな。方術とやらは、先々までわかるのか?」


「私に聞かれても、分かりませんよ。」


仲達も困って返事する。


「輪、お前は、青華国の事や方術の事を知っているのか?」


「いえ。あまり多くは、ただ、方術は、ある一族の末裔から由来する術だと聞いたことが有ります。」


「あー双頭龍族の事だな。ペンドラムさんが言ってた。なあ、仲達。そこらへんは、分かるんだが・・・あの予言じみた物言いが気になる。」


「そうですね。」


仲達が仁軌に相槌をうって言うと、輪が思い出して言った。


「あーもう一つ、聞いたことと言えば・・・青華国で病治院に居たものに、方術で相手の気を可視かすれば、相手がどのような選択をするかが、見れるとかって聞いたことが有りますよ。」


「そういうことか・・・。ってどういうことだ?まー、使えないやつが考えても仕方ないってことだな。」


そんな会話が続いていた時、放った鳥便の返信が来た。


「なんて、書いてある?」


仁軌がのぞき込む。


「国境警備守主人は、北光国第7皇子 重慶。配置警備員多数の為、潜入困難。屋敷に女、子供無の為、その方面での潜入も不可。」


「これは、参ったな・・・。それに、重慶殿とは・・・。」


仲達が思案する。


「知っているのか?」


「ええ。以前、西蘭に滞在していた方です。ですが・・・政治と無縁だった方が・・・なぜ?」


「北光の内乱時に、唯一いなかった皇子だな・・・。俺は、記憶を失っていた時、ある農村にいたんだがそこへ、今の北光国の現帝が内乱で逃げ落ちて来ていたんだ。その時に難いの良かった俺が、駆り出されて功績をあげて、現帝を今の地位に戻すのに一役買ったんだ。」


「ああ。それで、将軍職まで・・・。」


「そうだ。それと・・・記憶を戻したのは、その戦いの最中だっけな。」


思い出しながら話を続ける仁軌。


「だから、現帝は、俺を利用しても殺すまでしないとは思う。ただ、安里たちは違う・・・。今回の件で素性が明らかにされたことだろう・・・。確実に利用されて、また、西蘭国に内乱を起こさせようとするはずだ・・・。和睦反故に有利になるようにな。」


「そうですね。仁軌さんの事を調べ上げて、安里様の事も分かるのは必然です。」


その頃、安里たちは、青華国の密使の手引きにより、春恩川から乗船し海南国を経由しようとしていた。

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