第4部 第3話 国境

仲達に奏らしき人が、国境手前の街 華土(ふあど)に到達した情報が入った。


「安全に送り返したいが、ここまで来るぐらいだ。引き返してはくれまい・・・。いっその事、来賓として婚儀に出席させる形をとるほうが良いのでは?」


仁軌が提案する。


「だが・・・まとまった縁談に波風が立つのは・・・。」


「くすぶるより良いでしょう。受けて立ちましょう。」


リュートが話に加わって言った。


「殿下・・・こう言っては何ですが、二人には情が有ります。恋愛とは、違うと言うものの・・・それなりに気分を害するかと。」


仲達が憂慮して言う。


「そう、心配するな。避けて通ろうとした結果がこれだ。月涼なら何とかするし・・・殿下も受けて立つと言っている。」


ぐっと拳を握締め頷く仲達にリュートが肩を叩く。


「私は、全てを受け止める準備をしています。彼が無事に帰れるよう・・・支えてあげてください。」


仲達は、器の違いを思い知らされている気分であった。そして、このぐらいの器が奏にもあれば・・・と思った。


「とりあえず、都市テスタまで同行致します。そこを拠点に、北光の国境都市、華土に探りを入れて、仲達殿は、東宮殿下の捜索を仁軌殿は、囮と会う手筈を整えてください。」


打ち合わせた後一行は、リュートの案内で城を後にした。


このことは、奏の事を隠し来賓として扱うためにも、月涼に知らされることはなかった。


華土の街についた奏は、宿泊先を探していた時に不穏な動きを目にした。明らかに武装した北光国の者たちがいたからだ。


「輪、ここで、一泊して青華国のテスタを目指すつもりだったが・・・何やらおかしい。巻き込まれるわけにいかぬ。馬車と食材を調達してテスタまで行こう。」


「分かりました・・・。そう言えば、先ほど、掲示板に人探しの張り紙が有り・・・安里様のお顔に似ておりました・・・。」


思い出しながら頭を抱えて奏が言った。


「んん・・・。あの時、仲達の書簡がもう一つあり、北光国に動き有りと・・・。ちっ。ちゃんと見ておくべきだった・・・。とにかく、二人では何もできない・・・。分かることが有れば応援の要請を飛ばすしかないな。」


「そうですね。先を急ぐ事を優先しましょう。」


華土を出て国境まで来た奏は、こちら側から行く門で長蛇の列が、なされている事に気づいた。


なかなか国境を越えれず困っている者たちに話を聞く。


「なんでも、西蘭国との和睦にこぎつけて、有名になった将軍様が国を裏切って青華国に逃げたって、話でさー。屋敷ももぬけの殻らしくて・・・それを捉えるためだとか役人が言って、荷を全て点検するから時間がかかって大変なんでさー。」


輪が他にも情報が無いかと、奏の側を離れていた時だった。数人の役人が奏の目の前に来た。


「これは、これは、西蘭国東宮殿下ではございませんか?その様な格好で、青華国に入国されるのですか?護衛も付けず?一体何用でしょうか?」


奏の目の前に現れたのは、北光国第7皇子 重慶(じゅうけい)であった。


「もしや・・・重慶?なのか?」


「そうだ。私が人質で、そちらにいたころだから・・・数年ぶりか?」


「人質か・・・その様な待遇では、無かったと思うが?」


「ハハハハハ。まあ良い。久しぶりだ。少し、付き合ってもらおう。」


奏は、仕方なく重慶に同行することになった。


輪は、丁度戻って来ていたものの一緒に居ては、奏の状態を知らせるものがいないと思いぐっと堪えて、後をつけることにした。


奏が連れて行かれた先は、国境警備守役人の屋敷であった。


「まぁ、一杯付き合え!奏。」


そう言うと重慶は、屋敷の者に酒盛りの準備をさせ、奏を座らせた。重慶は、奏を捉えるわけでもなく、普通に酒盛りを始め昔話を始めたので、少しほっとしたものの、訝しげな面持ちで酒を飲み続けていると、重慶が本題を切り出してきた。


「例の公女って誰の事だ?西蘭がお触れを出した公女だ・・・。」


「あーそれで、呼び止めたのか?」


「そうだ。こちらとしては、西蘭に勢力を広げすぎられると厄介なんでね。」


「重慶・・・政治に興味なかったんじゃないのか?風流人で西蘭にいたお前が今更・・・何故?」


重慶は、北光国での地位は皇子の中で一番低かったため、国に留まらず漫遊して、西蘭にも数年滞在していた。その際、奏と良く行動を共にしていたこともあり、知己の様な中であった。


「あーーーそうだ。政治には、興味が無かったな。あの頃は、だがな、内乱で父が皇位を取り戻したは良いものの、安定させるどころか民の貧困に拍車がかかった。こないだの斉明の一件もそうだ・・・教育もせずに物の様に、嫁がせようとするから斯様な状況に陥った。次の東宮も父と変わらぬ・・・。諸国を漫遊して安定した国を見れば、わが国の情けなさと言ったら・・・・・・。」


「そうか・・・・・・。お前がそんな風に考えるようになっているなんてな。変われば変わるもんだ。」


フッと笑う重慶がもう一度聞いた。


「で、公女って誰だ。現陛下に庶子がいたのか?」


「いいや。庶子ではない。お前も知っている。月涼だよ・・・。」


「月涼?お前の隣によくいた・・・幼馴染のあいつか?男じゃなかったのか?いや・・・よく考えれば男にしては、少し線が細くて、綺麗な面持ちだったとは覚えているが。本当か?」


「お前、どうするつもりだ?公女の事を聞いて・・・和睦反故に賛同して挙兵するのか?」

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