第4部 第2話 奏の思い
仲達より西蘭国への報告は、2通の書簡であった。
壱・『涼麗公女と龍斗殿下の婚儀合意が成されました。公女様におきましては、船旅及び持病による体調不良もあり回復次第、婚儀の日程案内が正式に青華国より、送られる予定と相成りました事を報告致します。』
弐・『北光国での動きを取り急ぎ報告致します。正式に公女として認めるお触れにより、北光国が青華国と西蘭国の婚儀による同盟と捉え、青華国、西蘭国との和睦及び同盟を反故する動きがございます。これにより、北光国に渡っていた劉将軍は、青華国への亡命することと相成り、北光国に残された劉将軍の関係者を保護するためにこれから動く事となっております。北光国側の動きに注意されたし。 仲達。』
この書簡を見た奏は、陛下に激怒した。何も知らされていなかったからである。
「叔父上!!いえ、陛下どういうことなのですか?涼麗は、斉明公女の護送で動いていると聞いていたのに・・・なぜ、青華国に?なぜ?婚儀なのですか!!」
「朕の決めたことだ!!反論は、許さぬ!!」
「納得!行きません!陛下は、私の気持ちを知っていたでは無いですか?・・・・・・なぜです!!」
「知っていたからこそ、行かせたのだ。涼麗が後宮を纏めるのは無理だ。」
「そんな事、分からないでは無いですか?それに、持病とは?そんなもの聞いたこともない!!」
「黙れ!東宮!そちは、この国を背負って立つものぞ!一人の女子に執着する立場ではないのだぞ・・・!!」
皇后が見かねて割って入った。
「東宮・・・。納得いかなくとも堪えなさい。東宮妃も決まったのですよ。妃が可愛そうですよ。」
泣き崩れる奏に陛下が言う。
「一つだけ言っておく。その地位を陰で必死で守って来たのは、涼麗だと言うことを忘れるな!その思いに報いる君主になれ!」
「納得いくわけがないでは有りませんか!!」
捨て台詞を吐いて、部屋を出て行く奏を誰も止めることは無かった。
この後、奏は、輪を伴って秘密裏に出国して青華国へ向かった。どうしても、月涼に会って確かめたかったからである。だが、この無謀な行動は、更に月涼を危険な目に合わせるのだった。
奏が居なくなったことが分かった西蘭国では、この事が、諸外国にばれないようにと躍起になった。
仁軌の家族保護どころではなくなり、仲達にも鳥便での伝令が来た。
『東宮、秘密裏に出国した模様。青華国へ向かったと思われる。手を使い確保すべし!』
「なんてことだ・・・。東宮殿下の考えの甘さが・・・。君主になられるお方がこの様な行動を・・・。」
呆れて肩を落とす仲達。
「どうした?仲達、何が書いてある?」
文を見せられた仁軌もまた、呆れてしまった。
「若さとはいえ、見境無いな・・・。仲達・・・、国の恥かも知れんが、ここは、この国に協力してもらうほうが良いぞ。和睦反故に向けて北光国が動いている今の状況では、身の危険が大きい。」
「ああ。そうだな。仁軌さんの言う通りだ・・・。」
仲達がリュートに協力を仰ぐとリュートは、直ぐに提案した。
「丁度良いのかも知れません。仁軌殿を国境に向かわせる案を進めていた所ですから、その動きに同調して、西蘭国の東宮殿下を探せば、周りにも分からないでしょう。如何ですか?」
仁軌も頷いて言う。
「それが良い!それなら、私も協力できるぞ仲達!最短の道程で此方へ向かっているはずだ。うまく鉢合わせられたら良いな。では、事を急ごう!」
国境へ向かう準備が終わり、仲達、仁軌一行が国境へ向かう頃、仁軌の読み通り・・・奏は、北光国経由で青華国国境付近まで来ていた。
「輪、もうそろそろ国境か?」
「はい。この山を越えれば・・・国境前の街に入ります。ですが・・・本当に大丈夫なのですか?このような事をして・・・。」
無言の奏に仕方なくついていく輪は、不安でいっぱいだった。この辺りは、賊も多く出没する。いくら、剣に秀でているとはいえ多勢に無勢であるのは言うまでもないからだ。
「奏様・・・そろそろ馬を休ませないと・・・そちらに見える小川で、どうですか?」
「うむ。そうだな。」
小川に駆け下り。馬に水を与え、持って来ていた干し物を輪と共にかじりついた。
「輪・・・。涼麗の持病の事を聞いたことあるか?」
「いいえ。私の様なものに伝わるわけがございません。」
「そうだな・・・。いったい、どのような持病なのだ・・・。」
「奏様・・・失礼を通り越して良いのなら、同じ女性として考えられる事を申せます。」
「良い。話せ。」
「涼麗様は、普段、月涼様として男性になって動いておられますよね・・・。その際でも、女性として困りごとは、月のものです。ですが、その・・・涼麗様から月のものの話が出たことがございません。もしかして、今だ・・・月のものが無く・・・。多分、お子が望めないのでは?ないでしょうか?それならば、陛下が後宮に入れないと言う理由も分かります。後宮にはいって、皇后になったとしても、権力争いに巻き込まれれば、確実に廃妃に持ち込まれます・・・。」
「それならば、なぜ、言ってくれないのだ・・・陛下は?」
「父として、娘の体の事を言いたくは無いのでは?それと青華国は、それも知っての縁談かと。」
輪の推測に思い当たることのあった奏は、月涼が祖母と海南に行ってしまい、会えなかった日々を思い出した。
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