第4部 第1話 北光国の動き

あの日、リュートが月涼の部屋へ足を運んだのは、仲達や仁軌が、月涼を連れ帰ろうと説得するかと憂慮したからではなかった。北光国の動きが、きな臭くなってきていた為だ。その件を仁軌と話し合うつもりだったのである。


「仁軌殿、実は、貴殿の国の件で話が合ってこの部屋に来たのだ。」


「何か?」


「うむ。これは、ここだけの話で、私は、貴方を信頼してお話しする。ここにいるものは、関わりが大きいためここで話そう。」


先ほどのほんわかした雰囲気から一変する話となった。


リュートの話によると、今まで、西蘭国と青華国のつながりは、海南を介してしかなかったのに、今回の結婚で勢力図が、ガラリと変わると考えた北光国が、和睦を反故しようとしている事だった。そして、仁軌が動いたことで、仁軌を間者と思い始めたと報告が入ってきたのである。


「しまった!!俺としたことが焼きが回った・・・。だが、なぜ、結婚のことが北光国に漏れた?この事は臥せて来たんだが・・・。」

仁軌は訝しげに言う。


「それは、西蘭国がリァンリーを公女として公表したせいで・・・なぜ、今になって公表となったかを北光国が探りを入れたせいでしょう。」


リュートが仁軌に言った。


「裏目か・・・・。」


仲達がぼやく。


「安里!!安里たちが危ない。帰らねば・・・。」


その時だった、窓の外を大きな鳥が飛来し、リュートが窓を開けるとバサバサと羽音を立てて、入ってきた。


「ダリア。」


そう、リュートが呼ぶとリュートの腕にガシッと留まった。リュートは、足についた文を外し、鷹(ダリア)を再び窓の外へと放った。


「私の部下が安里様達と接触できたようです。取り急ぎ、身の安全の確保のために動いている為、次の連絡を待つ方が良いでしょう。」


その時だった月涼が口を挟む。


「殿下、青華国と北光国の地図が有りますか?」


「ああ。ペンドラム、地図を持って来てくれ!」


外に待機していたペンドラムが用意して地図を持ってきて、机に広げる。


「殿下、北光国は、仁軌さんの屋敷の者が居なくなれば、青華国へ逃げると思うでしょう。」


月涼が地図を見ながら言う。


「そうだな。私がこちらへいる以上、そうなるな。」


月涼が地図をにらみながら更に言う。


「北光国は、安里様の立場上、西蘭での滞留は難しいのも見越していると思います。そうなると、こちらに必ず向かうと踏んで、この辺りで待ち伏せすると思われます。ならば、川を使って海南ルートを使えないですか?殿下?」


「春恩川を使うと言う事か?リァンリー?」


「はい。この川で海まで出て迂回して、こちらに来ていただく方が安全です。春恩川に行くまでに囮は必要かと思いますが・・・。」


「月が月に戻った~」


小さな声で藍が言うのを仲達が聞いてプッと笑う。


「囮ですが、こちらから出迎えの様なものを北光国との国境に送れば、そちらに目を向けるのではないでしょうか?例えば、仁軌さんとか・・・。」


「だな、俺が見え隠れすれば、向こうは動くな。」


「ちょっと危険かもしれませんが、その方が信憑性が出ますしね。この国にも間者がいるでしょうから、わざと流してはどうでしょうか?」


「流石だな・・・月涼。」


仁軌が言うとリュートは心配そうに呟いた。


「リァンリー、君って人は・・・。一緒に行くとか言わないだろうな~。」


「えっ・・・。」


ちょっと行く気満々だった月涼が、頑張ってリュートに、行かせてほしい顔をしたが言うまでもなく止められた。


「以前の君の状態なら、何とか考えててあげたかもしれないが、今の体の状態では無理だ・・・。」


ため息と呆れ半分で言うリュート。


「えーーー。ダメなんですか?」


「当たり前だ!」


仲達も仁軌も言った。藍だけは、どっちにでも付くぞ!と風見鶏である。


その時、王后ソニアが入って月涼に一喝した。


「其方は、この国から支援しなさい。何でも、出て行けばよいわけでは無かろう?」


ぐうの音も出ない言葉で、シュンとなる月涼にホッとするリュートだった。


「仁軌とやら・・・この国が最後の地となるように動きなさい。そうしないと、流転の身になる運がある。この国で、所帯をきちんと持って暮らし王家に使えよ。さすれば、そち達を支援しよう。」


「それから・・・そこの・・・。」


「仲達と申します。王后陛下・・・。」


「そうか・・・仲達、其方もわが国に縁が有りそうじゃ・・・。」


仲達も仁軌も驚いて不思議そうな顔をしていた。


ペンドラムだけが後ろの方で頷いて、ニコニコしていた。


「リァンリー!!元気なら来なさい。其方は、これから、する事が山ほどある。知恵を授け終えたのなら行くぞ!」


「えっあっあ、はいーーー?」


返事を聞く猶予も与えられず、王后に連れて行かれる月涼だった。


この後、月涼とリュートの結婚の合意があったと、仲達より西蘭国に一報が入ったのだった。


そして、北光国の動きもまた連絡されたのは言うまでもなかった。

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