第3部 第16話 昼下がりの月涼

青華国に来て、一ヶ月が過ぎようとしていた。


眠り続けていたことで弱っていた足も良くなり、すっかり元通りになっていた。ただ、違ったのは、月涼の時の声色が出せなくなった事や、体に凹凸がきちんとできたことである。


『アーなんでこうなってんだろう?』頭の中でぼやくのは、治っていない月涼だった。


初めは、この凹凸になれず、無意識にすぐ手でつかんでしまい・・・フルルやルーランに、毎日注意されていた。


「リァンリー様、手!!手!!」


ルーランが真っ赤になって注意する。


「ああ、ごめん、またやってしまった。へへ。」


「その豊満な乳が気になるのは、仕方がございませんが・・・殿方が周りにおられます・・・。」


フルルは、毎度のことと呆れて注意する。


部屋に見舞いに来ていた仲達や仁軌は苦笑するしかない。


「すっかり、女らしくなったかと思っていたが、中身は変わらんな。外側だけだ・・・ハハハ。」


仁軌が豪快に笑う。


「毎日、やって来て、揶揄わないで下さい。」


「すっかり、元気になったし、4人だけで話ができるか?」


そう言ったのは仲達だった。


コクリと頷き・・・月涼は、人払いをした。


「何ですか?仲達さん。」


「その・・なんだ…。東宮殿下の事だ。好きではなかったのか?良いのかこのままで・・・。」


仁軌も藍も気にしていたが、あえて聞かなかった話題である。


「仲達さん。んーっととても、好きだった時が無かったとは言えません。でも、選秀女の時に疑問が湧いたんです。本当に好きなのかなって。」


「疑問?」


コクリと頷いて話を続ける月涼。


「奏の側にずっといて、このまま・・・ずっといるんだって思ってたんです。それを好きだって思ってたのかなって。」


「奏が、小さな頃から、命を狙われる度に、自分がしっかりして奏を守ってあげるんだって、そればっかり思っていて・・・好きだからそうしてるって。でも、その好きと人を愛する好きとは、違うのかも知れないって・・・。選秀女の時から考えてたんです。それに、自分があの後宮で生きていけるのかどうかも・・・。」


仲達は、月涼の答えに頷いて聞く。


「そうか・・・。東宮殿下の思う気持ちとは、違って来ていたのだな・・・。」


3人の顔を見返して月涼は、更に自分の気持ちを言った。


「藍や仲達さんは、兄弟の様に思えるし仁軌さんは、叔父の様に感じていて、いつも一緒に行動してくれることに感謝してる・・・。今回もこんな所まで来てくれて・・・本当にありがとう。」


3人とも月涼の言葉にジンと胸が熱くなるのだった。


「月涼、我々は、時間として短くとも・・・濃い時間を過ごしてきた。お前と同じ気持ちだよ。」


仲達がそう言い仁軌も藍も頷いた。


そんな、ちょっとしんみりした空気を突き破る仁軌の言葉だった。


「で、どうするんだ?結婚?」


仲達が言いづらそうなところを仁軌が突っ込んで聞いた。


「そうだよ、月?どうするの?まっ俺は、どっちでも、月の側にいられるから良いけどな。」


藍もワクワクしながら聞いている。


仁軌は、藍のこの言葉に呆れて、じっとりと藍を見た。


「何ですか?仁軌さんその目は!」


「何言ってんだ、お前、月涼がいなくなって泣いてたくせに。この月涼の枕!」


「泣いてません!!枕は、もうできませんよ~しても良いけど・・・。リュート様に怒られますから、要らないことは言わないでください!!」


「二人とも、私が月涼に気持ちを聞いているのに、静かにして下さいよ!」


仲達がちょっと怒り気味で言うのを月涼は、クスクス笑いながら仲達に言った。


「結婚しても良いかなと思っています。」


「えっ?」


あまりにも素直に、そう言う月涼を驚いて3人は、見つめた。


「だって、仲達さんの持ってきた書簡は、私が公女として世に出すものでしょ?同じものが西蘭でも出されているということです。今頃、国中で・・・隠された公女として民草の間で広まっていると思いますよ。もし、結婚せずに帰ったとしても、公女と認めたということは、どこかに下賜されます。」


「それは、そうかも知れぬが・・・体も良くなったんだし。もし、東宮殿下を思っている心が残っているなら・・・そう、リュート殿下に伝えても・・・。」


首を横に振る月涼。


「そんなことできません。この結婚は、国事・・・。」


そう、月涼が言い終わる前にリュートが入ってきた。


「リァンリー。国事だけか?」


「あっ。ちが・・・。」


リュートを見つめる月涼の事を見て、3人とも覚った。


ニッコリ笑って、月涼を見つめるリュート。


「好き合うのに時間は、要らないってことだな・・・。」


仁軌が、フッと笑って言う。


「そうみたいですね。東宮殿下には、しっかり諦めてもらいましょうか。」


仲達がやれやれといった感じで首を振った。


それを見たリュートは、仲達に言う。


「これで、納得していただけたかな?私は、無理強いするつもりもない。リァンリーの気持ちを大切にしている。彼女が結婚すると言葉に出すまで待つつもりでいたからね。今、聞けるとは思っていなかったけれどね。」


「あっそそれは・・・。まだ、あの、しても良いかなでですね・・・。」


口をパクパクしながら焦る月涼を4人は、大笑いした。


「もう!笑わないで下さい!!殿下まで!!」

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