第3部 第15話 月涼の記憶 3

藍とペンドラムは、リュートに頼まれた薔薇を部屋へ運び入れ、月涼の寝台の周りに置いていく。部屋はまるで、薔薇庭園のようになった。


「これでよいでしょうか?殿下?」


「うむ。二人とも下がって、待っていてくれ。」


「では、下がります。藍、行きますよ。後は、お任せしましょう。」


「はい!!」


リュートは、月涼に着けた額飾りを外し、接吻し、優しく月涼に呼び掛けた。


「リァンリー、リァンリー。愛しいリァンリー・・・。」


「ん・・・うーん・・・。誰?貴方は、誰。」


うつらうつらしながらも、目を開けようとする月涼。


部屋一面に、薔薇が鼻孔を刺激する。


「あー良い香りがする。大お爺様の薔薇庭園の香かしら・・・?」


「リァンリー目が覚めたかい?」


「あっ貴方は、あの時の・・・?」


リュートは、あの時と同じように月涼の頬にチュッと口づける。


「きゃっ。何するの!!もう!」


あの時と同じ言葉で、返す月涼をふわりと抱きかかえて言った。


「必ず迎えに行く。其方を愛し、大切に扱おう。そう、伝えていたであろう?」


抱きかかえたまま、月涼の額に唇を落とすリュート。


「思い出した・・・。大お爺様の薔薇園の人?」


「そうだよ。君の許嫁だって言っただろう?」


突然、いろいろなことが頭に流れ込んでくる月涼。神殿で、された口づけも思い出して恥ずかしさで、真っ赤に頬を染めている。


「全部、思い出したようだな。」


そっと、寝台に下ろし、隣に座るリュートが月涼の腰に手を回して、引き寄せ口づける。


「もう、逃がさないから・・・。藍もそばに置いていい。他の者も呼び寄せたら良い。ここにいて欲しいリァンリー・・・。」


「私・・・。なんて答えれば良いの?」


「この額飾りをずっと着けていてって、頼んだろう?君は、拒まなかったじゃないか?」


「でも、あの時・・・。」


「嫌じゃなかったんだろう?」


リュートの瞳を見つめながら、居心地の良さを覚えていた月涼は、コクリと頷いた。


頷く月涼に、もう一度口づけるリュート。今度は、深い深い口づけとなった。


甘い時間が二人に流れる・・・。


部屋の外では、藍がいつ呼ばれるのかとうずうずしていた。


「ペンドラム様ーーー!!。もう。治ったんでしょうか?ね?ね?」


まるで、中で起こっていることを察知して、邪魔しているかのようであった。


「これ!藍!まだ、治療中かも知れません。静かになさい。」


そう言いながらも、ペンドラムも月涼の状態を察知していた。


この二人のやり取りの声が、耳に入った月涼が我に返った。


リュートの胸から離れて、赤い頬のまま、モジモジしている。


「違う、違う、違う・・・やだ、もう、ダメ、恥ずかしい・・・。」


そんな月涼を見て、更に愛しく思うリュートだった。だが、今後・・・二人が良い雰囲気になる度に、藍のお邪魔虫に悩まされ続けることになったのは言うまでもない。


「藍、入っても良いぞ。」


リュートは、外の藍に声を掛けた時だった。


「ダメーーー!!」


「何で?」


「ダメーーー!!」


「何で?」


月涼と藍が押し問答をする。


「リァンリー、藍も随分心配している。会ってあげなさい。」


「今は、ダメ。だって・・・。」


赤い頬のままウルウルした瞳でリュートを見つめる。


「恥ずかしいのか?さっきの事で・・・。」


フフっと笑って聞きなおす。


「意地悪ですね・・・。」


俯く月涼の頭をポンポンと手を乗せ撫でるリュート。


「じゃあ、待たせて、続きをするか?」


月涼は、慌てて掛布を頭からかぶって枕に顔を埋めた。


「い・じ・わ・るーーー!!」


リュートが自ら扉を開けて、藍を部屋に入れた。


月涼に駆け寄る藍。


「月ーーー。月ーーー。戻ったんだよね。」


枕に顔を埋めたまま・・・『戻った』と叫ぶ月涼。


藍は、月涼を上からゆすって、更に声を掛けるが起き上がらない。


リュートが笑いながら、藍に言った。


「もう、大丈夫だ。いつものに戻るさ。」


「リュート殿下・・・月に、意地悪しないでください~」


「ハハハハハ。意地悪などするわけないだろう?」


「だって、さっき、月が・・・」


ペンドラムはこの会話に割って入ろうとしたが、リュートが手で合図して止めた。


「藍、お前は、リァンリーの事を月と呼び、彼らは、月涼と呼ぶ。リァンリーの名は沢山ありすぎるな。西蘭の本来の名は、涼麗だし・・・さて、わが国では何と呼ぶべきなのか?」


「リュート殿下・・・リァンリー様で良いと思います。海南の発音と青華の発音と同じ名だから・・・でも・・・月・・様でも良いですか?」


「ああ。藍は、常に側にいるからそれで良い。そうだな・・・リァンリー?」


相変わらず、顔も見せず枕に埋もれながら『うんうん』と言っている月涼。


「私は、リァンリーが良いのか?それとも月涼なのか?どちらが良い?」


そっと、耳元で囁くリュートに月涼が飛び起きた。


「ひーーー!くすぐったいです・・・やめてください!!」


「あっ月!顔が赤いよ?熱出したの?」


藍が月涼の顔を覗き込んで真面目に聞く。


「そんなんじゃ!なーーーーーーい!」


「元気じゃん!月。良かった。」


「よくなーーーーーい!!!。もう、一人にして・・・・・。」


渾身の叫びで言う月涼だった。


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