第1部 第10話 内乱の行く末

「ふぁ~・・・もう。」


時間は、足らないし目も痛い。


ぼやくしかない・・・月涼。


「だいたい、ここにあるなら、あの小箱が落ちてきた時点で見つかりそうなものなのにな…。」


あの時落ちてきた書簡のほとんどが、その当時のもので、小箱は一緒に保管されていたと考えられた。多分、間に挟むように小箱が置かれたんだよな・・・そう考えに行きついた月涼は、必要な書簡が持ち出されたか、他に保管方法を変えたのかもしれないと思えてきた。


そういえば、さっき眠気覚ましの散歩の時にともしび草の明かりが見えた気がする。


あの草、目に良いんだった。とりに行って灯りのそばに置こう。


ともしび草は、灯りのそばに置くと発光してあたりを明るくする。さらに、目に良い成分の液体が滴り気化して疲れを取ってくれる草である。自生でしか育たず、貴重な草だ。いろいろな花や薬草を植えている宮中でも滅多に見れないことと、夜間の数時間ほどしか発光しないのでその存在を知る人も少ない。


月涼は、ともしび草をとりに奥司書の裏手近くに行くと草に埋もれた小さな祠があることに気づいた。こんなところに祠?手灯りを近づけそっと覗くと鍵のついた小箱が奥にしまわれていた。月涼はそっと取り出し箱を開けた。鍵は、腐食して取れかかっていた為開けることが出来たのだ。


「あっこれは!!」


抜け落ちた当時の上訴書簡ともう一つの小箱が入っている。ともしび草のことも忘れて、慌てて部屋に戻る月涼。上訴文を確認する。


「これだ、この上訴を探していたんだ・・・。」


バサバサバサ・・・


窓の格子に連絡鳥が止まっていた。こんな刻に・・・何かあったのか・・・藍なのか奏なのか?とにかく落合場に行かなくては。書簡を胸元に入れ、駆け出す月涼。


「その書簡渡してもらおう。」


待ち伏せされていた。宦官に化けた兵士が3名・・・。殺傷沙汰は、なるだけ回避したいのにな~と思っていた月涼だが・・・致し方ない。


「ここまで、入り込めたんだから、まあまあな方の後ろ盾あり?ですね。」


と煽る月涼。仕方ないお相手しますか・・・と言いたいとこですが


「やっぱり、無理でーす!!」


応援が来たのを察知した月涼は、目くらましに砂を投げつけそのすきに逃げた。


「あと、宜しく頼みまーす。」


と走り抜けながら藍のもとへ急いだ。


その頃、藍は小舟で息をひそめて、月涼が来てくれることを祈りながら考えていた。

あれ、足だったよな。多分・・・赤ん坊の足。産室で生まれるはずの子がどうして外からも来るんだろう?皇太后は何をしようとしているんだ・・・?藍がそんなことを思い出しながら考えていると誰かがやってきた。


「藍?そこにいるのか?」


辺りは、まだ暗く見えづらい・・・


「月?月、来てくれたのか?」


不安そうに聞く藍。


「誰だ!お前!・・・」


月涼ではなかった。焦りと恐怖でいっぱいになる藍。


初めて見る顔。どうして、俺の名を知っているんだ・・・。


殺される!ここでは、不利だ・・・そう思った。


ごめん月、役に立てなかった・・・そう思って覚悟した瞬間。


「藍、私は奏だ。安心しろ。輪から聞いていないか?」


奏は、藍の頭にポンと手を置いた。


「月、月は大丈夫なんですか?」


ホッとして少し涙ぐむ藍。


「大丈夫だ、応援をよこした。ここへ向かっているはずだ。この小舟に3人は無理だからな月涼がついたら翔粋殿の隠し部屋に行こう。」


奏がそう言って小舟から下りた。


月涼が遠くから走ってくるのが見えた。


藍はホッとして月涼が近づいてくるのを見ていた。


ヒュン ヒュン・・・ドサッ。藍の手前で、月涼が倒れ落ちた・・・。


「月!!」


「涼麗!!」


藍と奏の声が重なる・・・。


更に弓矢が飛んでくる。月涼に駆け寄る二人。


「涼麗は、お前が担げ!!翔粋殿に向かって走れ。後ろから私が矢を躱す!!走るんだ!!」


奏の叫び声に、藍は自分を振るい立たせ月涼を担いだ。


「藍・・・大丈夫だ。衝撃でこけただけだ。行こう。」


月涼は、無事だった。


「う・うん。」


不安そうに月涼の顔を見る藍。藍と月涼は必至で走り翔粋殿へ急いだ。奏もその後を追った。追手は、暗闇にまぎれた月涼たちを見失った為、なんとか助かった。


「奏、思ったよりあちら側の動きが早い。どういうことですか?」


月涼が聞くや否や奏の方が聞いた。


「涼麗、矢が当たったよな!!なんで無傷なんだ?」


奏が聞くと月涼は、立って姿を見せた。


胸にも背中にも書簡を背負っていたのである。そして、矢も刺さったままだ・・・。


「これのお陰ですね・・・へへ。」


ほっとする二人・・・。


「そんなことより・・・」


と月涼が言い話をし始めようとすると


「そんなことっていうな!!」


藍と奏が怒り交じりに、同時に叫んだ。


「心配したんだぞ!死んじゃったかと思ったんだぞ・・・本当に怖かったんだからな・・・。」


藍は、もう半分泣いていた。


「まったく、何回、心配させたら気が済むんだ。」


奏は、あきれながら言った。







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