第1部 第11話 内乱の行く末 2
本題に入ろうと月涼が再び口を開いた。
「緊急事態ですので、私のことはさておきですね・・・藍、鳥を飛ばして、会わなくてはならない事態は何でしたか?」
二人はあきれながら聞いている。
この場に少しほろっとしつつあった藍も現実に引き戻された。
「あの女官を見つけたんだ。ずっと探してて、見つからなかったのに。今日、来たんだ。それも大きなたらいを持って、慌ててやってきた。ぶつかった俺にも気づかずに産室に入って行ったんだ。」
藍は、思い出しながら言う。
「たらい???」
二人が聞く。
「そう、大きなたらいだよ。ぶつかった時にかぶせていた布が少しずれて・・・ほんの一瞬だったけど見えたんだ。」
ゴクリと唾を呑み込む藍。
「何が?何が見えたんだ?」
二人して尋ねる。
「足だよ・・・赤ん坊の足が見えた。」
藍の言葉に、月涼も奏もピンときた。
「・・・すり替えだ!!すでに、公女が生まれていたんだ。だから、こんなに時間をかけているんだ。」
月涼がそう言うと奏も同じ考えだった。
「左丞相は、内乱に持ち込む気だ!!輪も危ない。」
陛下は、これを見越してはおられたが・・・奏は、陛下から離れてこちらに来ている自分を責めた。
「涼麗、その書簡を隠して、藍を安全な場所へ連れていけ。必ず口封じに合う。藍は証人だ!!翔粋殿の裏庭の塀に穴が開いていたのを覚えているか?そこから脱出して妓楼に向かえ。私は、一旦陛下のもとに戻る。」
奏は、自分の甘さを痛感しながら現帝の元へ走った。
「陛下!!!陛下はどこへ」
乾清宮にたどり着いた奏は、現帝を探すが見当たらない。
そばにいた宦官が奏の前に出て言った。
「先ほど、離宮から報告がありご出産のお祝いに向かわれたところでございます。東宮殿下。」
一足遅かったか!先ほどのことを報告せねばならないのに・・・
「私に言伝は無かったか?」
宦官は、袂から書簡を出し
「東宮殿下が参られたらこちらを渡すようにと預かっております。」
そう言って、奏に書簡を渡した。書簡には、内乱鎮圧すべし、門をすべて閉鎖せよと書いてあった。
「馬を引け!!これからすべての宮殿門扉を閉鎖し城外への出入りを禁ず!!後宮六宮も同じく閉鎖させぬものは、謀反とみなす!!乾清宮にいる軍部は旗を掲げ謀反軍部で軍機処を包囲せよ。銅鑼を鳴らせ!!一刻の猶予もならぬ。」
奏の掛け声が響くや否や、乾清宮に潜り込んでいた左丞相側の軍部が一斉に出てきて奏に切りかかる。
「東宮を捕らえろ!!」
現帝は、すでに動きを察知しており、東宮に刃を向けた時点で内乱勃発の合図として、精鋭部隊を潜めさせていた。
精鋭部隊が応戦しながら叫ぶ。
「殿下!右丞相側の軍部の待機完了しております。門扉への命令は承ります。お早く離宮へ!こちらの制圧はお任せを!」
現帝側についた大司馬王氏も秘密裏に参内し軍を率いて離宮へ到達し、左丞相側の軍部と今にもぶつかる寸でである。
その頃、離宮
「お世継ぎ誕生でございます!!お喜び申し上げます。皇太后様」
左丞相のわざとらしい声に離宮は沸いていた。離宮の者たちは、政権返り咲きと大喜びをしている。
何にも知らない下働きの者たちは、やっと生まれたのかとほっとしていた。
輪は、藍がどうなったか気になっていたが、この場から立ち去ることもできずに歓声を聞きながら立ち尽くしていた。
皆、喜びに沸いていて気づいていないが、門兵が内側にいない・・・。外門が閉められた可能性があることを輪は気づいていた。これでは、奏様に連絡が取れない。現帝が動いていると知らない左丞相は、今頃、乾清宮が落ちていると思っていた。東宮が現れた時点で現帝ともに葬れと伝えてあったからだ。これで、世継ぎとして大義名分を掲げ、すべてを制圧し右丞相を抑え込めば良いと・・・。
だが現帝は、離宮に向かったと思わせて神武門ですでに大司馬王氏と合流していた。
左丞相は、離宮側の兵の数を3分の2としていた。3分の1で乾清宮を制圧して、首を取ったあと右丞相が駆け付ける前に世継ぎを連れて包囲し攘夷させるのが狙いであったからだ。
だが、右丞相軍はすでに離宮前で激突するための待機に入っていた。
このことは、歓喜の涌く中、すぐ左丞相側に伝えられる。
「丞相殿!!出自前にすでに右丞相軍が包囲しております!!」
この一報により、現帝がこちらの動きに自分が知るよりはるかに早いことを悟った左丞相は、密偵がいると思った。
「いったい!!誰だ!!密偵は・・・。」
とにかく応戦しなくては、いけないと思った左丞相は、本来の計画の落城をあきらめ離宮で激突することを選んだ。
「皇太后様、少々、計画が変更されました。こちらでお世継ぎと共に歓喜が上がるのをお待ちください。」
皇太后は黙って聞いていた・・・。
皇太后は、左丞相が去った後、ひそかに侍女を呼び、隠し扉に侍女と共に我が子を隠した。
侍女に手紙を託し、隠し部屋までの通路を教え潜ませた。
「良いか?私が迎えにくるまで絶対に出るでないぞ。もし、・・・が来たらその手紙を渡せ」
そういって扉を閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます