第1部 第9話 女官の行方 2

月涼から藍宛ての短冊には『この房をつけてね。母より』だけだった。


月ったらいつの間に俺の母になったんだ~と頭の中でからかって想像していたらすっと近づくものが・・・いた。


「あら、私と同じ房ね。下町の毛さんのお店で可愛くてついつい買ってしまったのよ。あなたも?」


といって藍のそばに寄ってきて耳元でつぶやいた。


「話を合わせて…あなたの味方です。」


「違うの~母が送ってくれたのよ。部署移動のお祝いにって。」


二人はたわいもない会話で、周りに房つながりで仲良くなったと見せつけた。


「ねえ、外で話しましょう。まだ、仕事まで時間があるようだし。」


そういって藍は、そのものを宿舎から連れ出した。


「私の名はりんです。奏様と月涼様よりあなたを補佐するようにと仰せつかっています。」


補佐という言葉にちょっと感動する藍…。


「えーっとありがとう。それで、この房が・・・なんだね。輪って呼べばいいね。俺・・・私は藍よ。宜しくね。ところで奏って誰?」


「あっ月涼様の上官の様な方ですよ。」


ちょっと慌てて答える輪に、フーンという顔をしながら


「ま、宜しく頼むよ。」


そういって、探したい女官の特徴を輪に伝えた。


輪は奏から、藍を補佐する事とちょっとだけ意地悪しろと言われていた。


意地悪と言われても・・・なと思いながら藍と話していた。


奏様はいったい、何がしたいんだろうか???と思いつつ任務に就くことにした。


藍と輪が離宮で働き始めて1週間がたったが、あの女官と思しきものは見当たらなかった。


「おっかしいな、離宮の女官じゃないのか?」そう思い始めたころだった。


皇太后が産気づいたとの一報が入った。 にわかに人員が増え、産室が慌ただしくなり主水司の直轄で湯が大量に沸かされていく。そこに駆り出された藍と輪は、お湯を運んで行ったり来たりしている。産室からは、時折息む声とこらえきれず出た声が漏れる。一報が出てからもう、六刻が過ぎた。少し難産なのかもしれない。大量の血の付いた布が運び出され声も減っているのに産声は上がらなかった。


その時一人の女官がたらいに大量の布を入れてやってきた。 藍が躓きそうになった時にその女官と少し接触した。


「申し訳ございません。」


藍は、誤り頭を下げたが女官は、慌てているのか無視して産室へと入っていった。


その横顔で藍が気付いた・・・あの女官だ!!それに、あのたらいは何だったんだ。あの女官以外の中へ運んでいる布は、新しいもので、反物のまま運ばれているのに・・・。まるで、何かを覆いかぶせるだけの様に盛られていたぞ。


あれは、・・・あれは・・・。


藍の感が働く。輪にそのことを伝えに走った。


「そこのもの、湯の運びが遅れているぞ!!」


側にいた宦官が藍が輪のもとに付く前に腕をつかんだ。


「申し訳ございません。あまりの血多さに催してしまい・・・」


口元に手をあてながら藍が慌てて答える。


丁度、頭の中の考え事で、血の気も引いて顔も青くなっていた為、信じてもらえその場を解放された。藍は、必死で輪を探した。


月!月!どうしよう・・・変なもん見ちゃったよ・・・頭の中でぐるぐる回る。


またしても、肩をつかまれて引き止められ、血の気がドンドン引いていった。


「藍ちゃん。どうしたの持ち場を離れて・・・」


輪だった。ホッとする藍・・・でも、この場で言えない。月のところに行かないといけない。


「輪・・・今すぐ、奏様か月涼様に合う方法ないかな?」


「えー!!だって、ここから離れたら怪しまれるわ。それにどちらにいらっしゃるか鳥でも飛ばさないと・・・。


そういいながらも、輪は、藍の顔を見て、何か重要なことを知ってしまったと感じた。


「藍ちゃん、どうやってこっちまで来たの?誰かに許しをもらった?」


「うん。宦官に呼び止められたけど、血を見すぎて・・気分が悪くなったからって言ったの。そしたら、放してくれて。」


そういって、下を向く藍。


「分かった。采女司に言って通符をもらってくるから。待ってて!!それから、鳥を飛ばして、落合場に向かいなさい。この場は何とかするわ。」


輪は、主水司のもとにいる采女司に通符をもらいに走った。無事、通府をもらい離宮から出た藍は、辺りを警戒しながら鳥を放した。だが、明け方、まだ、日の登りが遅く鳥が正確に行くかの心配があった・・・。


月涼はその頃、奥司書に明かりを灯し徹夜で一文を探していた。


皇太后の出産が始まり、何かが起こると感じていたからだ。 早く探さなければ、また、内乱になる可能性もあるとも思っていた。


奏の方は、現帝とともに左丞相の軍の動きに注視し右丞相側に宮殿外部を固めるように指示していた。


左丞相側の私兵の移動が確認されていたからだった。


「陛下、このタイミングで動くでしょうか?出産直後の皇太后を伴って・・・。」


奏が陛下に伺っていた。

「東宮、今は、あの時と違う・・・ねじ伏せて離宮へ押し込めたのは、生まれていなかったからだ。例の上訴文もまだだ・・・こちらに不利になる可能性もある。」


私兵と宮殿軍部の兵の3分の2は、左丞相側と推測できる・・・出産を好機として動くと現帝は踏んでいた。もう少し早く、上訴文について知って、探させていれば・・・現帝は思っていた。









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