第1部 第8話 女官の行方

藍は、線が細く中性的な容姿だ。月涼とは正反対で愛らしい面持ちである。


たまに下働きの女官に化けて情報をもらったりしている。


「あら、藍ちゃん!久しぶり~どこ行ってたの。最近見ないから、洗濯場が寂しかったんだから。」


藍は、下働きアイドルだった・・・。


「私ってば、かわいいから、芸妓にスカウトされて断るのに困ってたの~うふふ。」


とか言いながら、女官の特徴を言って聞き出しを始めた。


女官は所在によって衣の色も形も変わる。宮外の下町などに出る時も決められおり通府とその衣と合っていなければ門から出れないのである。


洗濯場は、ありとあらゆるところから衣が集まられており、女官の所在はここで探るのが一番だ。


「こないだ、下町で買い物してたら、あんまり見たことない衣の女官に声かけられて・・・その時に手巾を拾ってね~その時の女官のものかと思うんだけど、すぐいなくなったから。どこの女官かと思てんだよね。」


とちょっと話をもって洗濯しながら話題を振った。


「もらっちゃえばいいじゃない。良いもんなんでしょ。それ!」


ちょっと、調子のいい実実が答えた。


「なに、言ってんのよ。私たちみたいなのが良いもん持ってたら、盗んだと思われるじゃない?ねー藍。」


そういって祥祥が突っ込むと、みな一斉にそうそうと頷いた。


祥祥は、この場のリーダー的な存在で采女司にも気に入られており各部への采配も任されたりしている。


「そうなのよね~」


藍が適当に相槌を打ちながら、小話を続けていたら采女司の丁女官がやってきた。


離宮の人出が足らないらしくこちらのものを回すようにと祥祥に伝えていた。


それに従い祥祥が皆に聞いた


「胎産書に従って、準備が始まったらしくて、人手を回してって、誰か行きたい人いる?」


「皇太后さま、お産が始まるのね。おめでたいけど・・・どうなんだろうね。」


等と皆が口をそろえて言っていた。


「一つ間違えれば、首が飛びそうだし・・・遠慮するわ。」


と先ほどの実実が答える。いつも一言多い子だと藍は、思いながら聞いていたが確かにその通りだ。


お産なんて何があるか分からない。何か起これば真っ先に下働きに罪がかぶせられるからだ。


「じゃあ、私が行くわ・・・転々とするの得意だし、うふ。」


と藍が答えると祥祥が飛んできて手をつかんで、うるうるした瞳でお礼を言った。


「ありがとう~藍!!。頼りになるわ。」


お産だけじゃない。政権争いに負けた離宮に行きたいものなんていないからな~と藍はつぶやきそうになったがそこは堪えて祥祥に言った。


「その代わり、無事に勤め終えたら~茶店の一番高い夕餉おごってよ祥祥・・・ね。」


「恩に着るわ藍・・・大丈夫、戻ってきたら必ず連れてく。」


祥祥もホッとしていた。内心誰も行ってくれなければ丁女官に怒られるうえに自分が行かねばならなかったからだ。


藍として、これはこれで好機ととらえていた。


この洗濯場で見つからない衣なら離宮ぐらいかと考えていたからだ。


早速、月涼に離宮を探ることを話に約束の場所へ行く藍だった。


宮中には、御華園のような大きな庭園以外に小さな庭園が散見する。大小合わせれば50ほどの等も存在する。その一つに、翔粋殿の端にある池で待ち合わせていた。ここは、先々帝令妃の住まいで今は使われていない為、人目が少なく蓮の背丈が伸びていて小舟を浮かべてもその存在が見えない。


藍と月涼は、定期的にそこで落ち合うことにしていた。


ぴょこんと飛び乗り小舟が揺れる。


「おい!転覆するだろう・・・」


ちょっとムッとする月涼にたいして、へへと笑いながら藍は、座った。


「月、皇太后のお産が始まるから人手が駆り出されてる。俺、そこに潜入してくるよ。こないだの女官は、多分、離宮の女官だ。洗濯場で衣を確認したけど、あの女官の衣と同じものが無かったからな。」


「その格好でか?」


月涼がちょっと笑いながら、と藍の格好を眺めて聞き返す。


「かわいいだろう~俺ってば」


と自慢げだ。月涼ほどじゃないが可愛い系の女官には見えなくもない。


下働きなので前髪も下ろせる為、かなり雰囲気は変わる。


「まあな・・・だけど気をつけろよ。普通の潜入より危険が多いぞ。産室には入るなよ。」


月涼は、少し心配していたが離宮の動きを見張るには丁度良い時期だ。


「君子危うきに近寄らず・・・なんてな。分かってるよ。」


冗談を言いながら船を降りて去っていく藍の背中を月涼は、健闘を祈るとつぶやいた。


入れ替わりで奏がやってきた。


「奏、藍が離宮に潜入します。そそっかしいところもあるので奏の手のものは入っていませんか?」


「私もその件で来たのだ。皇太后の出産で離宮が騒がしくなる。間者を入れやすい状況だ。左丞相の動きもあるし、藍とやらを組ませて潜入させようと考えていた所だ。あやつに緋色の房をつけさせておけ。それが印だ。」


そういって奏は、緋色の房を月涼に手渡した。


月涼は、房を見ながら思った。奏も藍が女官に変装できると踏んでいるなと・・・。


それにしても、順番が入れ替わっていたら、藍に渡せたのに・・・2度手間だと思う。


「私が潜り込めば一番楽なんですけどね・・・。いちいち報告待たなくても良いし。」


と月涼がぼやくと奏は、


「だめだ!!」


の一言だけ言って奏は、なんだか怒って帰っていった。


そんなに強く言わなくても~と思いながら・・・


「あー2度手間だよ・・・やっぱり。さて、自分の部署に戻りますかね。」


とぼやく月涼だった。


房は、潜入先の宿舎で藍に無事届けられた。



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