第8話 課長宅でのお疲れ会_後

 社長秘書のひろ美さんがテーブルに着いてからは、石田課長のお酒を飲むペースが早くなった。  

でも二人とも楽しそうにグラスを傾けており、その合間に私の事を聞いてくる。

 正直言って、ひろ美さんが居る時のほうが、課長のでれ具合がひどい。

最初は向かい合って座っていたはずが、今は隣に座り、さらに私の肩に腕を載せている。

この格好でイカゲソでも咥えていたら、たんなるオヤジだと思う。


「どう、もういいオトコ見つけた?」

「えっ… そんなまだ余裕無くて…」


「じゃあ、余裕が出てきたら物色するの? どんなのがタイプよ?」


何だか課長の口調がおかしい。


「えっーと、私を大事にしてくれそうな優しい人かな…」

「あーっ、まだ、オトコを知らないね。いつ優しくして欲しいのよ?」


「いつ?」

「そう、どんな時に優しいといいの?」


「えーっと…」

「夢を壊すようで悪いけど、急にDVするようなヤツだって、表では優しかったりするよ。あとは最初だけとか、子供授かるまでとかさ」


「そういう人は全部願い下げです」

「いっそ、女子にしたら、痛みが分かるから優しいよぅ」


話を言い終えた課長が私の耳に、ふぅと優しく息を吹きかけた。


「ぃやぁ…」


「また、初心な声を上げちゃって。可愛いわね」


そこにひろ美さんが話に加わって来た。


「知恵さん、そんなんだと、香織に付け込まれるわよ」

「課長にですか!?」


「ひろ美、それ以上は妨害行為よ」


「課長、何の妨害になるんですか?」

「それはあれよ。あなたの健全な成長よ」


 私の頭の中には、はてながいっぱい浮かんでいるが、更に質問してもはぐらかされそうだ。


「かおりー、私が黙っているメリットって何かあるの?」

「唯一無二の親友ポストよ」

「ふーん、そんなもんですか…… じゃ、先に風呂に行ってくるねー」


そう言うと、ひろ美さんはテーブルを離れていった。

すると課長が私の腕を握った。


「疲れた。ソファ行こ」


 そう言って私を立ち上がらせると、ソファの端へ座らせた。そして課長はゴロンと横になると、頭を私の腿に置いた。


「こないだのお返しね」


そう言って目を閉じてしまった。


 それからひろ美さんが課長を起こしてくれるまでの間、頭が落ちないように様子を見ながら過ごした。

 その時間は自然と課長の緩やかに動く胸と肩、そして少し開き加減の口元を見ながら過ごす、という事になり、それがなぜか非常に落ち着くと知った。


「やっぱり寝たか。それもひざ枕とはよっぽど好かれたね。さぁ、起こそうね」


 ひろ美さんにユサユサと揺すられながら、課長がもぞもぞと動く。

眠りを邪魔するものから逃れるように、課長の手が私の腰に回り、顔をお腹に埋めてきた。


「もうっ、起きなさい」


 そう言うと、今度はお尻をペシペシと叩き始めた。

するとようやく課長がお腹から顔を離し、目を開けて、ひろ美さんを見た。

 そして、ひろ美さんに向かって手を伸ばすと、抱きかかえられるようにして、寝室に連れて行かれた。


「さぁ、お風呂どうぞ」

「あっ、テーブル片付けます」


 二人で片付けると私はお風呂へ入った。

お風呂は広くてきれいで快適だった。シャンプーとかが全て二種類ずつあったので、課長と同じ匂いがするほうを使った。そして体を洗い、シャワーで洗い流すと体を拭いた。


ガチャ


そこへ課長が入って来た。


「あっ、ごめんなさい」


「もう、あがるの? つかっていきなさい」


 口調が昼間の課長に戻ってる。タオルを脱衣所へ戻すと、言われたとおりに湯船につかった。

課長は私が居ることを気にする感じもなく、手早く全身を洗うと、私の隣へつかった。


「あの、お酒、もう大丈夫ですか?」

「うん、そうね。抜けるの早いかな」


「そうなんですね…」

「でもひざ枕は気持ち良かったなー。甘い匂いもしたし。シャンプー、同じだね」


「はい、同じのを選びました」

「どれー、嗅がせて」


 そう言って課長が私の前に来た。もちろん胸を隠したりしていない。

目の前には形が良くてスベスベで触り心地が良さそうな胸。

 そのまま私の頭を抱きかかえるように両腕を後ろに回し、髪を持ち上げた。


「サラツヤで綺麗な髪だね」


声は頭の上から…… 面前には課長の胸……


その胸が離れていくと、代わりに課長の顔が降りてきた。

その目、魅力的で私の意識が吸い込まれてしまいそう…… まぶたが重くなり目が閉じる……


 …… 閉じた目を開けると、そっと笑う課長がいた。

だから少し近付こうとしたら、もう一度近づいて来てくれて、唇に柔らかくて温かいものが触れた。

それが気持ち良すぎてもっと欲しいと思ったら、いつの間にか満ちたりた気持ちになるほどに、課長が与えてくれた。


 その晩、私は課長と同じベッドに寝た。そして翌朝、朝食をいただくと帰宅した。


「ただいま」

「うん、おかえり」


 うちではすでに皆が起きていて、たぶん帰宅する私を待っていたようだ。

でも朝帰りの娘に何か言いはしなかった。


「ごめん、もう少し寝るね。お昼になったら起こして」

「どうぞ、おやすみなさい」


(つづく)

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