第7話 課長宅でのお疲れ会
「ただいまー」
「おかえりなさい、ひろ美」
ダイニングキッチンへとつながる扉を開けて入ってきた一人の女性。
もしかして、課長のパートナー!?
「あれっ、えっ、社長秘書の!?」
「はい、河出 ひろ美 です。石田 香織 課長のルームメイトです」
「ルームメイト?」
「そうです。同居人です。恋人かと思った?」
私は素直に頷いた。
「まぁ、ありえますもんね。でも違います。私が転がり込んだだけです」
「ひろ美、お腹空いたー。何か作ってー」
「かしこまりましたよ、石田課長」
一体この二人の関係は、どういったものなんだろうか?
河出さんがエプロンを着け、ブラウスの袖を捲くるのを見ながら、これは美女二人のあやしい関係…… ひそかにそう想像した。
すると課長が私を呼んだ。
「知恵ちゃん」
振り向きかけたら課長の指が私の頬に刺さった。
「んあっ!?」
「ひろ美の事、ガン見してたわよ。駄目よ、あなたは私を見ていて」
課長の手を握り、指を頬から離すと課長の顔を見た。その顔は妖しい微笑みをたたえていて、そんな顔で見つめられたら、恥ずかしくなってしまう。
私が俯向いてしまうと課長の手が伸びてきて、今度は優しく頬を包んだ。
「可愛いわね。ますます気に入ったわ」
そんな事を今このタイミングで言われても、どうしていいのか分からずにいると、課長の手が擦るように柔らかく動く。
気持ちがいいような、くすぐったいような何とも言えない気持ちで、体も固まっていたら、ひろ美さんが声を掛けてくれた。
「今度は、知恵さんに手を出すの?」
「そんなに節操なく振る舞ってないわよ。それにひろ美には関係無いでしょ」
「まぁね、確かに住まわしてもらう時に、干渉しないって決めたけどね」
「ひろ美に合わせた彼女だって、まだ一人じゃない。もうちゃんとお別れしたし」
「でも社内恋愛はやめておいたほうがいいと思うよ」
「分かってるわよ。別れなきゃいいんでしょ」
何だか二人でとんでもない話をしだしている。それに内容が開け透けだ。
「あの…… お二人の関係はいったい……」
「私とひろ美は幼馴染。去年、ひろ美が賃貸の更新をする時、うちの部屋が余ってるって話をしたら、ひろ美が転がり込んできたの。恋人でもなんでも無いのよ」
「課長の幼馴染。同級生ですか」
「そう、中高と一緒でね。大学は別だったけど、まさか会社で再会するとは思わなかったわ」
「その節は、お世話になりましてー」
「もうっ、ひろ美はね、途中から入ったのよ」
「そうなの。だから、その際の石田課長からの多大なるお口添えに、今でも感謝してます」
「別に何もしてないわよ。ひろ美は実力で石原社長に認められたのよ」
二人で何だかよく分からない話をしているが、ひろ美さんが入社する時に、石田課長がひと肌脱いだのかも知れない。
「あの… そこまで聞いてしまうと、何があったのか気になるんですけど」
「そうよね、ちゃんと説明するわね。うちの会社ね、以前は専属秘書を置いて居なかったんだけど、事業拡大でどうしても必要になってね、それで人材派遣会社に派遣して貰ったの。それが半年間働いてみて、双方が気に入ったら正社員になるってしくみだったんだけど、正社員化する時に、私が何か口添えしたんじゃないかと疑ってるのよ」
「なるほど、社長は課長を信頼していますもんね」
「それを逆手に取って、誰かを押し込むなんて事はしないわ。ただ、ひろ美とは、初日からしっかりと連携して、時に進んでサポートもしたから、そこは贔屓だったかもね」
「ひろ美さんの実力ですね」
「もういいわ、むず痒くなってきたから、その話はお終いにして」
そう言うとひろ美さんはスパゲティと野菜スティックを持って来てくれた。
「ありがとうございます」
「それで、知恵さんは泊まってくの?」
「はい、そう誘われてます」
「ふーん、そうなんだー」
ひろ美さんが課長の顔を見たが、課長は素知らぬ顔をしている。
「あっ! 課長! けっこう飲んでますね」
「そうよー、香織は強いのよ。酒癖も悪いけどね」
「でも、歓迎会では下戸って… でもそういえば、武勇伝もあるって…」
「そう。酔ったふりしてねー、酷いんだから」
「ストップ! ひろ美。そこまでよ。それ以上は私の自由な活動を阻害するわ」
「へー、へー」
「知恵ちゃん、心配しないで。必要な時に教えるわ」
必要な時っていつ何だろうと思いつつも、曖昧に頷きを返した。
(つづく)
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