第4話 意気込み過ぎ 空回り!?
残業した翌日、出社すると、さっそくパソコンを立ち上げ、担当打ち合わせの準備を始めた。
そこに係長の岡田さんが声をかけてくれた。
「社内の配布資料は、原則、白黒の両面ね。それから可能なものは二画面ずつ片面に割り付けてね。もちろん不要なら配布無しでもいいよ。主催者が手持ち一部だけで、メモっても構わないし」
「はい、分かりました」
「あと、打ち合わせ卓の予約は、机まで行くと、カレンダーがあるから、そこに書き込んでね」
「はい……」
「スケジュールと貸し出し品、それと社外応接室はウェブ上で管理だけど、社内の打ち合わせ卓は紙管理だから、取ってきてね」
「はい、行ってきます」
細かい話だが、私はまだ知らないことばかりだ。教えてもらえるのはありがたい。
「おはようございます」
今村さつきさんが来たので、さっそく九時十五分からの打ち合わせをお願いした。
「共用端末の使い方はその時伝えますね」
「うん、お願いします」
今回が、この会社での初陣なので、担当内といえども準備は万全にしておきたかった。
そこで、打ち合わせに必要なファイルは予め全て開いておく。
そして、三人のスケジューラに時間を登録すると、資料の見直しなどを行い、開始時間を待った。
「よしっ、行こうか」
「はい、お願いします」
岡田さんに声をかけれて私も席を立った。
「知恵さん、この机の端末はログオフしてください」
「あっ、はい」
その操作をしてから、打ち合わせ卓の説明用画面のそばに座った。
「そうしたら、この大画面につながった端末で、ログインして下さい」
私は言われたとおりに操作をした。すると私の机の上のPCと、同じ画面がこの大画面に表示された。
「じゃあ、最長45分でいこうか。まずは説明を聞かせてくれ」
「はい!」
私はまとめた資料を元に説明を行い、いつもどおり、スムーズに終えた。
緊張はしたが、それも最初だけで、すぐに自分のペースで話すことが出来たので、少なからず満足していた。
「なるほど、話はわかり易くて、内容は良く分かったよ」
「はい、ありがとうございます」
「ただ、このレベルの資料化は今後止めたいな。これ、頭の中を棚卸しして見せただけで、分からないから教えてちょうだいってレベルでしょ」
そこからは岡田さんが、私の疑問に対する考えを述べ、加えて、この会社での仕事の進め方、そして、この案件の想定マスタースケジュールなどを教えてくれた。
「今回のこれさ、全社員販売とかって言葉が前面に出てるけど、社員だけでなく、販売代理店も対象に含めたいって考えが社長にあってさ。そこまでくみ取って、五月下旬には社内外に説明会を、始めたいんだよね」
「社長の考えですか?」
「大きな会社の社長は雲の上だろうけど、うちは話を直接聞けるからさ。早々にランチミーティングを取ってみてよ。そこで想いとか考えを聞こうよ」
「はい……」
「さつきさん、サポートよろしくね」
「はい! 任せてください」
「それと、営業担当者を対象とした販売コンテストは、今までも四半期単位で開催しているんだ。そこでは商材ごとの換算ポイントとか、表彰とか、細かいところまで出来上がっている部分もある。共有フォルダを覗いて、使えるところは参考にしてみて」
「はい」
「代理店での販売については、代理店担当にも話を聞く必要あるな」
「はい…」
「これも社長の想いなんだけど、代理店を現在の三社から、来年度には二桁に増やしたいそうなんだよね。今の三社は昔からの社長同士のつながりなんだけど、今後はそうもいかない。どうしてもきちんとしたインセンティブが、必要だろうって事だと思うよ」
「なるほど…」
「資料化する時の参考となる構成は、さつきさんに教わってね」
昨日の打ち合わせの場では出なかった話が、岡田さんの口からたくさん出て来て、面食らっているのが、正直なところだった。
何より一人で空回っていたかと思うと恥ずかしかった。
ランチの時間になると、三人で出掛けたが、まだ気持ちの切り替えが出来ていないところもあり、さつきちゃんが話してくれる他愛もない話が有り難かった。
それでもご飯をしっかりと食べて、食後のお茶を飲んでいるとマイナスで淀んだ感情は消え去り、午後以降の仕事の組み立てに意識が向き始めた。
「知恵さん、明日の十一時から社長ヒアリングの時間取りました。スケジューラ入れてありますので、確認してくださいね」
「ほぇ!? 明日の午前中?」
「今回は大丈夫。手ぶらでいいよ。全社員販売の件で社長の想いを聞かせてほしい、で行けるから。もちろん質問事項をリストアップしたりしてもいいけどね」
岡田さんがそう言うなら、大丈夫なんだろうと思うが、相手は社長だ。忙しい合間に時間を割いてくれたと思うと、何も資料無しは心苦しい。
しかし、その考えを見透かしたかのように岡田さんが付け加えた。
「そうそう、石田課長がサシで飲みたがっていたから、今日は定時過ぎたら誘ってみてよ」
「サシですか!?」
「そう! なんの心配もいらないと思うよ」
これで私の午後の予定が決まってしまった。
午後は、全社員販売という施策をまとめるための参考資料を入手し、ひとまずはその前例に倣う形で内容を詰めていく。
そして、明日の社長ヒアリング後に、その部分を加味していく。
まぁ、確かにやる事が見えてしまえば、後は取りかかるだけだ。
今は岡田さんを信じて進もう。
しかし、席に戻った私は一応、課長にインスタントメッセージを送った。
『今晩、飲みに行きますか?』
これで課長のパソコンにメッセージありが表示されただろう…
課長はお忙しいから、急には無理じゃないかな…
ところが、その返事は間髪入れずに届いた。
『行く! 万難を排して!』
何となく、背中に課長からの熱い視線を感じた…
(つづく)
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