「ふっざけんな──ッ!」と、誰も居ない教室でイケ好かないギャルの机を蹴飛ばしたら──。ぼっちで陰キャな俺の日常は目まぐるしく変化した。もう戻れない、あの頃には──。
第5話 小柄系巨乳ライオンvs王道系ゆる巻ライオン
第5話 小柄系巨乳ライオンvs王道系ゆる巻ライオン
昼休み──。
汗拭きシートの処理に手間取ってしまい、普段よりも昼食を取り始めるのに十分ほど遅れてしまった。
ササッと飯を済ませて、図書室に行くのが俺の昼休みの過ごし方だ。
もたついていると音霧さんが俺の机の上に座ってしまうからな。
……で、今日は汗拭きシートに気を取られ、もたついてしまったわけで……。
俺は膝の上にお弁当箱を置いて、音霧さんの背中を眺めながらご飯を食べていた。
ワイシャツ越しにブラ紐やホックが透けて見えるのだから、困ったものだ。
(もぐもぐ。もぐもぐ)
それになにより、こうしてご飯を食べているときは口呼吸ができない。だから否応にも音霧さんの甘美でハレンチな香りが鼻の中に押し寄せてくる。
せっかく母さんがお弁当を作ってくれたのに、味なんかわからないよ……。
(もぐもぐ。もぐもぐ)
しかし今の俺は、家の中ではライオン使いだ。
楓とのトレーニングメニュー次第では、この状況さえも克服できるはずだ。
幸いにもカエデライオンと音霧さんは、体型が色々と被る部分があるからな。というかもう、ほとんど変わらない気がする。……特におっぱいとか。
(もぐもぐ。もぐもぐ)
とにかくトレーニングをしないことには始まらない。今は静かに日常を送ろう。
でもそんな時に限って、事件は起きてしまうもので──。
「は? カラオケなんて行くわけないじゃん。なに言い出しちゃってんの?」
「……え。えぇー?!」
少し切れ気味の軽井沢さんに対し、ただただ驚く様子の音霧さん。
しかし次の瞬間──。
「うわぁぁぁん。カラオケ行きたいぃぃぃ!」
駄々をこねるように脚をバタバタさせてしまった!
そのたびにスカートがぴゅいっぴゅいっとなびき、水玉模様が連撃技を繰り出す。
普段なら「わかった」と軽井沢さんが折れる場面。俺は何度もこの光景を見てきたから知っている。
だが今日は明らかに軽井沢さんの様子は違った。オコなんだ。王道系ゆる巻ライオンが牙を剥き出しにしているんだよ!
「いやいや、あずさ。昨日のアレはないっしょ? それでカラオケ行こうって、通るわけないじゃん」
「だって約束したもん! 合コンに行けばカラオケ付き合ってくれるって言ってたもん! ケイちゃんの嘘つき!」
「あんさ〜、ただ来ればいいって話じゃないっしょ? 思いっきし目の前でスマホ弄ってるのに、連絡先聞かれた途端に隠して“スマホ持ってない”っていう馬鹿がどこにいるんだよ」
「ふふんっ。ここに居るんだな~! わ・た・し!」
なるほど。どうやら昨日の医大生との合コンで音霧さんが不手際を起こしたらしい。
思えば、朝から軽井沢さんは不機嫌だった。
それを感じさせない音霧さんの能天気さが空気をいい感じに誤魔化していたんだ。
「マジふざけ過ぎっしょ。あずは少し勝手が過ぎるんだよ」
「ふんっ。勝手なのはどっちかな? カラオケ行くって約束したのに!」
これはまずいぞ。ライオン同士の小競り合いが始まってしまう……!
呑気にお弁当を食べている場合ではない!
音霧さんは小柄系巨乳で愛くるしい見た目だが、短いスカートの丈を操りし立派なギャルだ。
だからこうして王道系ゆる巻ギャルの軽井沢さんを相手にしても、一歩も引かずに主張する。それどころか、煽ってしまう──。
ライオンって奴はどうしてこうも、争いを好む生き物なのか。
戦わないと生きていけないのだろうか……。
「カラオケに行きたいんだったら、もう少し真面目にやれって言ってんの。今日も昨日のメンツで予定立てるから挽回してくんない?」
「やーだやーだやーだ! 今日は絶対にカラオケ行く日なのー!」
音霧さんは更に駄々をこねるように、俺の机に背中をくっつけてしまった。
それはまるで、お菓子コーナーで「買って買って」と床に寝そべる子供のように──。
しかしそれを良い年した女子高生が行うともなれば完全にふざけた感じにしか見えず、軽井沢さんの眉をピクリとさせた。
に、しても──。
こんなふうに俺の机の上で仰向けになられると、まるで配膳されているように見えなくもない。
女体盛り……?
先ほどは体操着だったけど、時を待たずして実物が配膳されてしまった。
地球の重力を目一杯に受け、尚且つワイシャツ越しだというのに二つの大きなお山が見事なアーチを描いている。
……いや、本当に………。俺がここにいること、忘れないでくれるかな……。
「あんさぁ~、そんなことしたって今日はカラオケ行かないかんね〜」
「ふんっ。いいもん! なんか寝心地いいし! お昼寝してやる!」
ちょっと、あの。ここ俺の机なんですけど……。
「ぐーすかぴー! ぐーすかぴー! スヤスヤスヤァ!」
これ、絶対起きてるやつでしょ。そんなふうに言いながら寝る人、居ないから……。
とはいえフザけているように見えるけど、音霧さんもこれでかなりのオコだ。
二体のライオンがオコ&オコ──。
小柄系巨乳ライオンvs王道系ゆる巻ライオン。
冗談抜きで此処に居るのは危険だ。
ライオン同士の小競り合いに巻き込まれでもしたら、命の危機に瀕する!
もういい! 今日ばかりは便所飯を解禁する!
NOと言える男になると掲げたとは言え、まだトレーニング一日目。時期尚早だ。
逃げることを恥じる必要はない!
そう思い、立ち上がろうとすると──音霧さんと目が合ってしまった。
「あっ、お掃除大好き人間くん発見!」
そ、そりゃ居るでしょ……。君がいま寝転がっているのは俺の机だからね……。
だが、適当に返事をして便所飯を決行する!
もはやここはサバンナよりも危険な場所になってしまった!
「ど、どぅも……!」
言いながら席を立つと──。
「ねえねえ、今日、カラオケ行かない? 割引券あるんだけど!」
……え? それってもしかして、俺に言っているのか?
まさかな。足早に立ち去る!
「ねぇ〜え!」
言いながら俺の胸元を人差し指で突いてきた。
…………うん。どう考えても、俺に言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます