第50話 彼の過去③(カルード視点)

 フェリンドとの話し合いが終わり、俺は母上とともに馬車に乗っていた。

 結局、母上はあの男の言葉を認めなかった。俺はあくまで、クーテイン家の子供だと主張したのである。

 だが、この主張が通るのも時間の問題だ。いずれ、フェリンドが父上辺りにこのことを伝えるだろう。すると、どうなるかは言うまでもない。


「カルード、よく聞きなさい」

「はい?」

「今日あったことは、誰にも話すことは許されないこと。それを理解しておきなさい」


 俺に対して、母上はそのようなことを言ってきた。

 当然、俺もこのことを他者に話せばどうなるかはわかっている。

 しかし、この状況で最初に言うことがそれなのだろうか。


「このことが誰かに知られれば、私もあなたもクーテイン家にいられなくなる。それは避けなければならないことよ」

「……ええ、わかっています」


 母上は、最初に自らの保身に関することを言ってきたのだ。

 権力欲にまみれたこの女にとって、一番優先しなければならないことだったのである。

 真実を知った俺を思いやるという気持ちなど、母上は持ち合わせていない。自分のことしか考えず、俺を見ていないこの女は、俺の母親だといえるのだろうか。


「あなたは、今まで通り、クーテイン家の長男として過ごしなさい。私とあなたは、一蓮托生……わかっているわね?」

「わかっています。安心してください、母上」


 俺の言葉に、母上は満足そうにしていた。

 その顔に、俺は怒りを感じずにいられない。自身の過ちを俺に背負わせて、よくそのような顔ができたものだ。

 だが、同時に理解していた。母上は、元々こういう人間だったのだと。

 前々から、母上は俺に冷たい目を向けてきた。あの目は、俺がクーテイン家の血が混ざっていないことを知っていたからできた目なのだ。

 俺が父上との子なら、母上は何度もそう思ったのだろう。だから、あのような突き放す目ができたのである。


「フェリンドのことは、私に任せておきなさい。悪いようにはしません。彼にも、わかってもらえばいいだけです」

「はい……」


 そもそも、父上が何も知らないと思っているこの母上は愚かでしかない。確証は持っていないだろうが、父上は俺に対して疑問を持っているはずだ。

 あの冷たい目が、その証拠である。突き放すようなあの目は、自身の子供ではないのではないかという疑問からくるものだろう。

 フェリンドが動く動かないに関わらず、父上はいずれ真実を知る。それが、どうしてわからないのだろうか。

 そんなことを考えながら、俺は帰路につくのだった。

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