第48話 彼の過去①(カルード視点)

 俺の名前は、カルード・クーテイン。エルビネア王国に暮らす公爵家の長男である。

 クーテイン家は、国内でも有数の高位の貴族だ。その家の長男として、俺は家を継ぐことになっている。

 それ故に、俺は今まで厳しい教育を受けてきた。次期当主として必要な力を身に着けるために、様々なことを叩き込まれてきたのである。


「父上、それで話とはなんでしょうか?」

「うむ……」


 そんな俺は、父上に呼び出されていた。

 何やら、話があるらしいのだ。

 俺を見る父上の目は、いつも冷たい。突き放すようなその目に、俺も色々と思う所はある。

 だが、それは俺を公爵家の長男として立派な人間にしようとしている心の表れだ。そのように解釈することで、俺はその疑念から逃げることにしている。


「……家庭教師から、最近、お前はかなり優秀な成績を収めていると聞いている」

「ええ」

「だが、それだけで満足してもらっては困る。お前は、このクーテイン家を継ぐ者だ。この程度で満足せず、もっと精進しろ」

「はい」


 父上の言葉を、俺は肯定した。

 俺は生まれてから今まで、父上から褒められたことはない。

 どれだけ優秀な成績を収めても、父上が言うのはもっと上を目指せということだけだ。

 別に、褒められたくて努力している訳ではない。しかし、いつまでも認められないという環境は、それ程居心地がいいものではなかった。


「さて、話はそれだけだ。早く自分の部屋に帰りたまえ」

「わかりました。失礼します」


 父上の話は、それで終わりだった。

 俺は、ゆっくりと父上の部屋を後にする。

 結局、父上は何が言いたかったのか。それはよくわからない。呼び出されると、いつもあのようなことを言われて、それで終わりだ。


「あら? カルード……」

「母上……」


 父上の部屋から出た俺は、歩いて来ていた母上に気づいた。

 俺という人間に対して、冷たい目を向けてくるのは、母上も同じだ。突き放すようなその目は、いつも俺の心に突き刺さってくる。


「あの人と話していたのね……」

「ええ」

「そう。何を言われたかは知らないけど、あなたはこのクーテイン家を継ぐ者。その努力を怠ることは許されないのよ」

「わかっています」


 母上からかけられたのは、父上と同じような言葉だった。

 クーテイン家を継ぐ者、それが俺の背負うものだ。その使命果たせる人間になるため、二人は俺に冷たい目を向けくる。

 そのように解釈しながら、俺はずっと生きてきたのだ。二人がその目を俺に向けてくる真の理由を知るまでは。

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