初夜

「まさか花嫁が男の子とはなぁ」


祭りの後、集会所に設けられた酒の席でCさんの父親が呟いた。


「過疎で女の子がおらんけんとは家長さん言うけどな、ありゃ長男の種を残したくねえだけじゃわ」


父親の隣で酒を飲んでいた村人が小声で応答し、側にいた村人達が頷き合った。

Cさんは彼等の話を聞きながら、花嫁のことを気にかけていた。




村の人々が酒盛りをしている間にCさんはこっそりと集会所を抜け、あの御堂まで行ってみた。真っ暗な山の中、御堂の中から漏れる光が眩しい。Cさんは周囲に誰もいないのを確認し御堂の格子戸から中を覗いた。

裸電球が明々と灯る室内、肉やら米やらの食べかすが残る盆の側、襦袢に着替えた"神様"が同じく襦袢姿の少年の膝に頭を預けて眠っていた。少年はしばらく"神様"の寝顔を見つめていたが、Cさんに気づくとそっと"神様"の頭を膝から下ろし格子戸まで駆け寄ってきた。


「よそ者が初夜を覗きに来た」


嘲笑しながら言う少年をよそに、Cさんは格子戸を塞ぐ閂(かんぬき)を外し始めた。


「いやちょ、ちょ、ちょっと!何しとん!」


「思ったけどこれ犯罪だよ。村ぐるみで人間二人監禁してんの。警察呼ぶからその辺に隠れてて」


言いながら格子戸を開き少年に手招きするCさんに、少年は眉をひそめて「はあ!?」と返した。


「馬鹿か!ここらの警察は某家とつるんどる連中ばかりじゃ!下手に通報すりゃお前の命が危なくなるんぞ!だいたい誰も助けて欲しいなんて言っとらんやろ!よそ者が勝手なことすんな!」


目を剥いて怒声を上げる少年に気圧されたCさんは呆然と少年を見つめていたが、すぐに視線を少年の背後へと移した。

いつの間にか目を覚ましていた"神様"が少年のすぐ後ろに立っていた。立ち上がった"神様"は二メートル近くあろうかという程背が高く、切れ長の目を肉食獣のように光らせて少年を見つめている。

"神様"に気づいた少年は立ち竦むCさんに「閂かけろ」とだけ言うとさっさと戸を閉めてしまった。締め出されたCさんはその場に立ち尽くし、格子戸越しに展開される光景を眺めた。

仰向けに倒された少年の上で、"神様"が少年の顔を舐め回しながら頻りに腰を動かす。少年ははじめ「痛い、痛い」と悲鳴を上げていたが、やがて悲鳴は甘さを帯び始め、上気した顔が恍惚として虚空を見つめ始めた。

"神の生まれ変わり"と花嫁は山の御堂で初夜を迎え、そこで契りを交わすことで初めて夫婦として成立する。Cさんの目の前で行われている行為こそ正しく"契り"だった。今この瞬間、"神様"と少年は夫婦になったのだ。

夢中で"契り"を眺めるCさんの背後で枝を折るような音が響き、Cさんは心臓を高鳴らせた。

慌てて振り向くと、御堂の数m手前、スウェットパーカー姿の某家の次男が懐中電灯でCさんを照らし怪訝そうな顔を見せていた。

村の人間、それも一番質の悪い家の人間に見つかってしまった。Cさんの身体が凍りついたように動かなくなり、呼吸が速くなる。

その間に次男は御堂の入口まで歩み寄り、側に放られた閂を拾って格子戸に掛けた。


「それ、」


「誰にも言わんので早よ帰って下さい」


次男に促されたCさんは転がるようにその場から逃げ出した。山道に入り、恐る恐る御堂の方を振り向く。格子戸に張りついた次男が中を覗きながら自慰に耽っていた。

Cさんは"契り"の妨害以上の禁忌に触れたような気になり、駆け足で祖母宅に戻った。既に集会所での宴は終わっていたらしく、風呂上がりの父親が目を丸くして「どこ行っとったん」とCさんに声をかけた。Cさんは「散歩」とだけ言って寝室に籠り、風呂に入るのも忘れて眠ってしまった。



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