御堂

村に着くとCさんの祖母が、あらぁCちゃんお産以来ね、お父さんが全然顔見せに来ないから、と満面の笑みで出迎えた。

父親はこれからは時々連れてくるよ、とだけ言うとさっさと祭りの準備をしに行った。

残されたCさんはしばらく祖母の家でスマホをいじっていたが、やがて退屈になり外へ散歩に出た。

集落では村人達が祭りの準備で慌ただしくしていた。中にはCさんの父親と同じように、この祭りの為に都会から戻ってきたのであろう人々が複数いたが、その中にCさんと同年代の人間は見つけられなかった。彼等はCさんを見ると一瞬目を丸くして、しかしすぐに作業に戻っていった。

何となく居心地の悪くなったCさんは集落を離れ、田園地帯を横切る国道に進んだ。ところどころひび割れたアスファルトの上を歩きながら田圃を眺めていると、田圃の向こうにそびえる山の麓が少しだけ拓けているのに気づいた。山の入口だろうか。気になったCさんは近づいてみることにした。

拓けた部分の先には人が歩ける程度にならされた道が延びていた。Cさんは好奇心の赴くままに道を突き進んだ。

飛んで来る羽虫を払いながらしばらく道を歩くと、突然教室一個分ほど拓けた空間が現れた。真ん中には寂れた御堂が建ち、その前で歳の近そうな少年が御堂の中に向けて手を振っていた。

ようやく同年代の人間を見つけたことで安心感を得たCさんは思わず少年に声をかけた。少年はぎょっとした顔で振り向くと「よそ者か」と安堵した様子で呟いた。


「何してんの?何かいるの?」


Cさんが尋ねると少年はCさんのそばに駆け寄って小声で「神様」と答えた。


「他の人に言うなよ。まだ顔合わせちゃいかんことなっとるけんな」


周囲を忙しなく見回しながら囁く少年を、Cさんは「神様?」と気の触れた人間でも見るような目で見つめた。


「嘘やと思うなら中見てこいよ。一瞬だけやぞ」


少年に促されCさんは御堂の格子戸に顔をつけ中を覗いた。中では若い男がぐったりと横たわっていた。肌が青白く手足が痩せ細っている。


「人じゃん。犯罪じゃないのこれ」


「神様ちゃ。頭が弱ぇでな、祭りの主役やけど途中で暴れるかもしれんけんって飯抜かして体力奪っとるらしい」


祭りの主役と聞いてCさんは父親から聞かされた話を思い出した。

そうか、あの人が今年成人した"神様の生まれ変わり"か。それにしても風習とはいえ酷いことをする。こういうのって役所が動かないのだろうか。Cさんは悶々としながら少年と共に山を下りた。

少年との別れ際、Cさんはふとあることを思い出して少年に問いかけた。


「"まだ"顔合わせちゃいけんって言ったよね?いつなら顔合わせて良くなるの?」


少年は口を歪めて答えた。


「あとでわかるわ。楽しみにしとけ」



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