第八百四十八話 5月29日/高橋悠里はお風呂に入った後にログインして『アルカディアオンライン』のアップデート情報を聞く

寝る準備を整えた悠里は張り切ってファンタジーVRMMO『アルカディアオンライン』をプレイする準備を整え、横になって目を閉じる。


「『アルカディアオンライン』を開始します」


サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。


気がつくと、悠里は転送の間にいた。

今は、パジャマ姿だ。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様。『アルカディアオンライン』のアップデート情報があります。お伝えしても宜しいですか?」


「よろしいですっ」


「『最愛の指輪』を嵌めたNPCがパートナー以外のプレイヤーから殺害される事案が一定数以上起きたため、プレイヤーの嘆きやクレームに対応するためのアップデートを行いました。尚、このアップデートは過去に遡って適応されます」


「アップデートは過去に遡って適応されるっていうことは、アップデート前にプレイヤーがやったことも『無かったことにはならない』っていうこと?」


「左様です」


「そうなんだ。なんか、それはちょっと可哀想な気がする」


「『転送の間』で悲しい思いを吐露しているプレイヤーがいたら、KPの申請を推奨しています」


「トロ?」


なんでマグロのお刺身の名前が出てくるのだろうと思いながら、悠里は首を傾げる。


「『吐露』というのは、ワタシが使った場合の意味ですが、思いを言葉にして話すことです」


「そうなんだ。『思いを言葉にして話すこと』をトロって言うんだね」


読書好きの幼なじみの晴菜であれば『吐露』を理解したが、読書といえば漫画という悠里は『吐露』という言葉を知らなかった。


「『アルカディアオンライン』で『最愛の指輪』を嵌めたNPCを殺害したプレイヤーには『デメリットスキル』として『最愛殺害』が付与されます。『最愛殺害』の後には、殺害したNPCのフルネームが記載されます」


「デメリットスキル!! 怖い!!」


サポートAIの説明を聞いた悠里は怯えて言った。

悠里の主人公であるマリー・エドワーズは『デメリットスキル』の『大泣き』を取得してしまい、過去に何度もひどい目に遭っている。


「『デメリットスキル』の『最愛殺害』のスキル内容は『スキル所持者のプレイヤーレベルが半分になり、失ったレベルは『最愛の指輪』を嵌めたNPCを殺害された、NPCのパートナーに加算される』というものです」


「プレイヤーレベルが半分になっちゃうの!? 怖い!!」


プレイヤーレベルはゲーム内通貨をリアルマネーに変換するために必要なものだ。

上げるのが大変なのに、半分も減ってしまうなんておそろしい……。


「『最愛の指輪』を嵌めたNPCを殺害された、NPCのパートナーには『メモリアルスキル』として『最愛の思い出』を取得します。殺害されたNPCの所持スキルの中から、好きなスキルをパートナーのプレイヤーが取得できます」


「そうなんだ。プレイヤーは最愛のNPCとの思い出を抱いて『アルカディアオンライン』の世界を生きていくんだね」


「左様です」


「じゃあ、たとえば、プレイヤーレベルが10同士のプレイヤーが話し合って、お互いの最愛のNPCを殺しあったら、お得にスキルをゲットできちゃうの?」


「左様です」


「そうなんだ……。効率重視のプレイヤーはやりそう……。あと、お互いに最愛のNPCを殺し合おうねって約束してたのに、片方に裏切られて逃げられるとかもありそう……」


「『アルカディアオンライン』の楽しみ方は、プレイヤー次第です」


「そうだよねっ。じゃあ、私、ゲームしてきますっ」


「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」


サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。

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