第八百四十六話 マリー・エドワーズは情報屋に砂糖の錬金の情報を売りたくてメッセージを送った後にうっかりログアウトし、クレムもログアウトする

マリーは情報屋へのメッセージを読み返す。



情報屋さん。私、錬金アイテムの情報を売りたいです。

なるべく早めに売りたいです。情報屋さんの都合の良い時間を教えて貰えたら嬉しいです。

今日は、ログアウトすることもあると思うんですけど、お風呂とかに入り終えたら、ずっとゲームで遊ぶつもりです。

どうぞよろしくお願いします。



記載漏れはないはず。大丈夫。

マリーは情報屋へのメッセージを送信した。


「真珠、クレム。は情報屋にメッセージを送ったよ」


マリーは、錬金窯にある砂糖をお玉で掬って素焼きのツボに入れてくれているクレムと、真剣な顔で作業しているクレムを見守っている真珠に視線を向けて言う。


「こっちも砂糖をツボに入れ終わったぜ」


「わんわんっ」


「ありがとう、クレム、真珠」


マリーは錬金窯にある砂糖をお玉で掬って素焼きのツボに入れてくれたクレムと、クレムを見守ってくれた真珠にお礼を言った。

クレムは使っていたお玉を元の場所に戻し、マリーに視線を向けて口を開く。


「マリー。オレ、リアルで風呂入って来ようと思うんだけど、マリーはどうする? もう風呂入った?」


「まだお風呂には入ってない。私もログアウト」


『ログアウトしようかなあ』と言おうとしたマリーは、うっかりログアウトをした。

ファンタジーVRMMO『アルカディアオンライン』は『ログアウト』というワードを声に出すと、ログアウトしてしまうゲームシステムなのだ。

マリーは何度もうっかり『ログアウト』と言ってしまうことがある……。


ログアウトしたプレイヤーとテイムモンスターは、その場で睡眠状態になる。

マリーと真珠が作業室の床の上に倒れ伏し、眠り込んだ姿を見てクレムは苦笑した。

『うっかりログアウト』は『アルカディアオンライン』のプレイヤーの中ではよくあることだ。


「じゃあ、オレもゲームやめるか」


クレムはそう言って、真珠の隣に寝転がった。

『アルカディアオンライン』はプレイヤーの痛覚設定が0パーセントなので、床に寝転がっても痛くない。

クレムは作業室の天井を見つめて口を開く。


「ログアウト」


クレムの意識は暗転した。


悠里が目を開けると、自室の天井が視界に映る。


「私、うっかりログアウトしちゃったんだ。……クレムもゲームやめるって言ってたし、ま、いっか」


悠里はそう呟いて、横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外して電源を切る。

それからゲーム機の電源を切った。

ヘッドギアとゲームをつなぐコードはそのままにしておく。


「ぱぱっとお風呂に入って、またゲームしようっ」


自室を出た悠里は、階段を駆け下りて浴室に向かう。

だが、浴室は使用中だった。祖母のパジャマが置いてあるので、お風呂は祖母が使っているのだろう。

お風呂に入る気満々だった悠里はがっかりした。

祖母のお風呂時間は、若干長いことがある……。


「お祖母ちゃんがお風呂から出るまで、テレビとか見ようかなあ」


夜にテレビを見るのは久しぶりだと思いながら、悠里はテレビが置いてあるリビングに向かった。




***


光月14日 夕方(4時17分)=5月29日 20:17

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