第八百四十四話 マリー・エドワーズは錬金窯の底にあった白い粉を、お玉で掬って素焼きのツボに入れる
マリーの作業室にはマリーと真珠、クレムしかいない。
錬金塔の作業室には、マリーが招き入れなければ他の者は入れないので、人目がある時には言えなかったことをクレムに伝えようと、マリーは口を開いた。
「あのね、クレム。私ねえ、塩を錬金してたの。『アルカディアオンライン』では勝手に塩を作ったり売ったりすると、死刑になっちゃうんだって。だから、人目があるところでは塩って言えなくて『白い粉』って言ったんだよ」
「塩を作ったり売ったりするとヤバいって話は、オレも聞いたことある。オレの錬金術師のフレンドが、港町アヴィラは海が近いから、塩を作って売ろうとして、錬金術師ギルドに塩を売れるか確認した時に、めちゃくちゃ止められたって言ってた気がする」
真珠はクレムに抱っこされながら、マリーとクレムの話を肯きながら聞いている。
クレムは真剣な顔で肯いている真珠の頭を撫でて、マリーに視線を向け、口を開いた。
「マリーはそんなヤバい塩、なんで作ってるんだ?」
「私の固有クエストをクリアするために必要なの。あと、うちの食堂のご飯をおいしくするためにも必要なのっ」
マリーの言葉を聞いたクレムは笑顔になり、口を開く。
「飯がうまくなるのはいいな。オレも協力する」
「とりあえず、まずは錬金の失敗アイテムを見てみるね。何が入ってるかな」
マリーはそう言いなっがら、錬金窯を覗き込んだ。
素焼きのツボを錬金失敗した時には、粘土ができていた。今度は何が入っているのだろう。
……錬金窯の底には白い粉があった。
「クレム、真珠っ。塩、できてるよ!! 錬金成功してたみたい!!」
「わおんっ!! わんわん!!」
錬金窯の底にある白い粉を見てマリーがはしゃぎ、真珠も喜ぶ。
クレムは塩の錬金に成功してはしゃいでいるマリーと、クレムの腕の中で大喜びしている真珠を微笑ましく見つめながら口を開いた。
「マリー。壁に、錬金アイテムを掬うお玉が掛かってるから、それで取り出せばいいよ」
「うんっ。塩は素焼きのツボに入れるね。ステータス」
マリーはステータス画面を出現させて、海水を入れていた素焼きのツボを取り出した。
そして作業室の壁に掛かっているお玉を手にして、錬金窯の底にある白い粉を掬い、素焼きのツボに入れる。
真珠は、抱っこしてくれているクレムの腕の中から飛び下りて、素焼きのツボに入れられている白い粉を、わくわくしながら見つめた。
「私、絶対、錬金失敗したと思ったのになー。成功してるなんて意外っ。嬉しいっ」
にこにこしながら白い粉をツボに入れ続けるマリーを見て、クレムは少し考え込み、それから口を開く。
「マリー。それ、本当に塩か?」
クレムの問いかけに、マリーはお玉を持つ手を止めて首を傾げた。
「塩でしょ? だって私、塩を錬金してたし、白い粉だし」
真珠はマリーが首を傾げているのを見て、真似をして自分も首を傾げる。
「本当に塩かどうか、味見してみろよ」
「わかった。ちょっと舐めてみるね」
マリーは、ツボの中に人差し指を突っ込んだ。
***
光月14日 夕方(4時05分)=5月29日 20:05
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