第八百三十五話 マリー・エドワーズと真珠は見知らぬ部屋で目覚め、もう少し目覚めるのが遅かったら、バージルに二人が縦に並べられていたところだったと知る

気がつくと、悠里は転送の間にいた。

また、学校指定のジャージを着ている。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様。プレイヤーNO59992アーシャからメッセージが届いています」


「アーシャさんからメッセージが来てるんだ。でも、今はとりあえず見なくていいですっ」


晩ご飯の分の1GPも、後でもらおう。忘れないようにしよう。

でも今は、ゲームを始めるのが先だ。

悠里はそう考えながら鏡の中に駆け込んだ。


マリーは目を開けた。視界には見慣れない天井。

見たことが無いベッドに寝かされていた。真珠も隣にいる。

マリーは強制ログアウト前と同じ服装で、マリーの左手の薬指には、ユリエルから贈られた『最愛の指輪』が嵌まったままになっていた。よかった。

だが、足元が心もとない。


「『疾風のブーツ』は、どこ……っ!?」


マリーは見知らぬ部屋、見知らぬベッドにいたことでプチパニックになる。


「わんっ」


マリーの叫び声を聞いた真珠は素早くベッド脇を見る。

ベッド脇にはマリーの『疾風のブーツ』がきちんと揃えて置かれていた。


「わうー!! わんわんっ!!」


「真珠。私の『疾風のブーツ』あった……?」


「わんっ」


マリーの言葉に真珠が肯く。

マリー自身も自分の目でベッド脇に置かれている『疾風のブーツ』を確認して息を吐いた。よかった。

『疾風のブーツ』は履くとAGI値が50上昇する貴重な装備品なので、失くしたくない。


マリーが『疾風のブーツ』を履き終えた時、バージルが部屋に入ってきた。


「マリー、真珠。起きたのか。マリーはリアルで晩飯食ってきたのか?」


「うん。お店で寝ちゃってごめんなさい。バージルさん」


「わわんわわう」


マリーと真珠は、バージルに迷惑を掛けたことを謝る。

バージルはマリーと真珠に笑顔を向け、口を開いた。


「気にするなよ。家族と暮らしてれば強制ロ……っと、言ったら俺もアレだな」


「ここってバージルさんの部屋なの?」


「俺と嫁が使ってる部屋だ。店の二階だよ。俺もそろそろリアルで晩飯食おうと思って部屋に来たんだよ。マリーと真珠がまだ寝てたら、こう、二人を縦に並べて、空いたスペースに寝てゲームをやめようと思ってたから、起きててちょうどよかったぜ」


目覚めるのがもう少し遅かったら、マリーと真珠はバージルの手で、ベッドに縦に並べて寝かされるところだったようだ。

しかも、バージルと並んで寝ることになっていたかもしれない。

その前に目覚めることができてよかった。


「じゃあ、私と真珠は教会に死に戻るね。バージルさん。ベッドを使わせてくれてありがとうございましたっ」


「わうわううわううわうわっ」


マリーと真珠がバージルにお礼を言って頭を下げると、バージルはマリーと真珠の頭を乱暴に撫でた。


「子どもと子犬が細かいこと、気にすんなよ。俺ら友達だろ」


「うんっ」


「わんっ」


バージルの言葉に、マリーと真珠は笑顔で肯いた。



***


光月14日 朝(2時32分)=5月29日 18:32


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