第八百三十二話 マリー・エドワーズたちは『日替わりおまかせ定食』のメニューの説明を受けて、食べ始める
マリーは、バージルのお嫁さんのリリアに、三人分の『日替わりおまかせ定食』を注文した。
『日替わりおまかせ定食』の対価は銅貨8枚、ご飯と味噌汁のおかわりは、一杯につき追加で銅貨2枚かかるということはバージルから説明を受けている。
「『日替わりおまかせ定食』の魚とスープの具は、店のお任せになるわ。だから、一人一人違うこともあるけど、どの魚も、どのスープもおいしいから期待してて。量もたくさんあるからね」
リリアの説明を聞いたマリーと真珠、アーシャはまだ見ぬ定食への期待を膨らませる。
リリアが台所に注文を伝えに行くのを見送って、アーシャが口を開いた。
「どんな魚を食べるかわからないのは面白いね。ウチのが、マリーちゃんや真珠くんと違う魚だったら、ウチの魚、マリーちゃんと真珠くんに一口ずつあげるね」
「じゃあ、私の魚も真珠とアーシャさんに一口ずつあげますっ」
「わんわぅ、わんわんっ」
真珠も、真珠の魚をマリーとアーシャに一口ずつあげる。
マリーと真珠、アーシャが『日替わりおまかせ定食』を楽しみに待ちながら、お喋りをしていると、香ばしい匂いが漂ってくる。
「アーシャさん。この香りって醤油っぽくないですか!?」
「マリーちゃん。ウチもそう思う……っ」
「わんわぅ。くぅん……?」
マリーとアーシャは醤油の香りで盛り上がり、真珠は『しょうゆ』がわからなくて首を傾げた。
パージルが両手に一つずつ定食のメニューが乗った木のトレイを持ち、リリアが両手で定食のメニューが乗った木のトレイを持って、マリーたちのテーブルに現れた。
「真珠の分のスープは平皿に入れてあるからな」
パージルはそう言いながらマリーの前に定食のメニューが乗った木のトレイを置いた。
真珠はバージルの言葉に尻尾を振って肯く。
「真珠の分のトレイは、床に置くか?」
「わんっ」
バージルに問いかけられた真珠は、肯いてマリーの膝から飛び下りた。
バージルは床でお座りをして尻尾を振る真珠の前に、真珠のための定食のメニューが乗った木のトレイを置く。
リリアはアーシャの前に定食のメニューが乗った木のトレイを置いた。
マリーは自分の定食の魚をわくわくしながら見つめる。
紫色の……イワシ? が三匹乗っている。醤油の香りが立ち上るスープが木のお椀に入っていて、その隣には山盛りのご飯。
スープの中身はアサリだろうか。海の食材極振りの定食だ。
『アルカディアオンライン』はゲームなので、食べた物がプレイヤーの栄養になるわけではない。
『アルカディアオンライン』では空腹を感じることはなく、プレイヤーが食べたいと思うだけ、存分に食べることができる。但し、お金が掛かるし食材も消費される。
NPCが食べる食料まで食べ尽くしたと判定されたプレイヤーの『NPCに対する善行値』は大きく減少する。
マリーの皿にも真珠の皿にもアーシャの皿にも、紫色のイワシ? が三匹乗っている。
真珠は香ばしい匂いに釣られ『一口ずつ分け合おう』という約束を忘れて、自分の紫色のイワシ? にかぶりつく。
リリアは、マリーたちの接客を夫のバージルに任せ、他の客への対応を始めた。
「皆、同じ魚みたいだね。これ、イワシ? 紫色だけど……」
アーシャの言葉を聞いたバージルが口を開く。
「これは、さっき俺が漁に出て獲ってきた『紫イワシ』だな。三人一緒にメニューの方がいいかと思って、親父さんに頼んでおいた」
「紫イワシ。『アルカディアオンライン』っぽい安直なネーミング……」
マリーは紫色の『紫イワシ』を見つめて呟く。定食は木のフォークとスプーンを使って食べるようだ。
「バージルさん。お箸無いの?」
マリーはご飯茶碗に入った白いご飯をスプーンかフォークで食べることにモヤモヤしながら問いかける。
「箸は無いな。俺はスプーンで飯を食うのが意外に便利だと気づいた」
「お米ってどこで買えるの!? あと醤油!!」
アーシャがバージルに問いかける。
アーシャは和食が好きだ。
太る心配が無い『アルカディアオンライン』の世界でご飯を思いっきり食べたい。
「醤油は、親父さんが作ってる『魚醤』だ。米は『米ひとで』っていうモンスターを倒すとドロップする。『米ひとで』に直で醤油を塗って網焼きにすると醤油の焼きおにぎりになる。見た目、ひとでをかじってるから、最初は変な感じがしてたけど、今は普通に食うぜ。旨いんだ」
「バージルさん!! その情報、情報屋さんに売った!?」
マリーはお金を稼げるチャンスを逃さない!!
バージルはマリーの問いかけに、笑顔で肯く。
「売った。結構儲かったぜ。親父さんが『魚醤』は店で使う分しかないっていうから、取引できなかったけどな。その金で店の看板を付け替えたんだ」
マリーのお金稼ぎの計画はあえなく潰れた。
がっくりと肩を落とすマリーの頭を撫で、バージルが口を開く。
「まあ、とにかく食えよ。真珠はもう『紫イワシ』の三匹目にかじりついてるぞ」
「そうだね、食べますっ。いただきますっ」
「いただきますっ」
バージルの言葉に肯き、マリーとアーシャは食事を始めた。
「イワシって小骨が多くて、私、それがちょっと苦手」
マリーがそう言いながら不器用な手つきでフォークを使い『紫イワシ』の身をこそげ取る。
「『アルカディアオンライン』は痛覚設定が0パーセントだから、喉に小骨が刺さっても痛くないよね」
アーシャはそう言って、魚醤で味付けをしたアサリのスープを飲んだ。おいしい。
「魚の小骨は継続ダメージが入るんだぜ。白飯かっ食らいながら魚を食えば、たいていの、喉に刺さった骨は取れるって親父さんが言ってた」
「ワイルドだね……」
「だからご飯がこんなに山盛りなの……?」
バージルの説明を聞いたマリーとアーシャが山盛りの白いご飯を見つめていると三匹目の『紫イワシ』を食べ終えた真珠は、平皿のスープに顔を突っ込んだ。
***
光月14日 早朝(1時45分)=5月29日 17:45
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