第八百三十一話 マリー・エドワーズたちは『筋肉自慢の漁師亭』の店の前でバージルと出会う
真珠が香ばしい、おいしい匂いを追っていると、木箱を持ったバージルと行き会った。
「真珠!! 久しぶりだな!!」
「わーわう!!」
真珠は久しぶりに、バージルに会えたことが嬉しくて、尻尾を振った。
バージルは筋肉自慢の大男で、以前、領主館に行く途中に力尽きたマリーと真珠を助けてくれたことがある恩人だ。
マリーとアーシャもバージルに気づいて駆け寄ってくる。
アーシャもバージルとは顔見知りだ。
「バージルさん!! なんでいるの?」
マリーはバージルと会ったことが意外で、彼に問いかける。
「マリー。ここは俺の店の前だぜ。俺がいるのは当然だろ? ようこそ!! 『筋肉自慢の漁師亭』へ!!」
「すごい名前……」
自慢気に言うバージルに、アーシャが引いている。
バージルは豪快に笑って店の看板を見上げた。
「俺の店になるからって、親父さんが……嫁のお父さんが、俺に店の名前を変えていいって。だから『筋肉自慢の漁師亭』っていう名前にしたんだ。かっこいいだろ?」
「かっこいい!! 筋肉自慢のバージルさんにぴったり!!」
「わーわう、わっううう!!」
マリーと真珠は『筋肉自慢の漁師亭』という店の名前をかっこいいと判断して盛り上がる。
アーシャは『かっこいいの基準は人それぞれだ』と思いながら引いている。
「店で何か食ってけよ。うちの漁師飯はうまいぜ。商売だから奢ってはやれないけどな」
バージルの言葉を聞いたマリーは肯いた。
マリーは『銀のうさぎ亭』という宿屋兼食堂の娘なので商売人の理屈はわかる。
「ちゃんと代金を払うよ。金貨とかじゃないよね?」
「定食は『日替わりおまかせ定食』一種類で、銅貨8枚だ。ご飯と味噌汁のおかわりは、一杯につき追加で銅貨2枚を貰うぜ」
「銅貨8枚なら払えるっ。真珠とアーシャさんの分も私が払うよっ」
マリーはそう言って力強く肯く。
真珠はマリーのテイムモンスターだし、アーシャには港に連れてきて貰ったお礼をしたい。
「マリーちゃん。ウチも奢ってもらっていいの?」
「はいっ。任せてくださいっ」
「わんわんっ」
マリーは節約家だが、ケチではない。
真珠は香ばしい、おいしい匂いが漂ってくる店で、おいしい物を食べられると思って喜んで尻尾を振っている。
マリーと真珠、アーシャはバージルに先導されて『筋肉自慢の漁師亭』の中に入った。
店に入ると、健康的な印象の美女NPCが出迎えてくれた。
マリーと真珠には、見覚えのある顔だ。
彼女にはヘヴン島の『赤い珊瑚亭』という宿屋で会ったことがある。
マリーの中の人の悠里は、恋人の要と通話した時に、彼女がバージルの求婚を受け入れたと教えてもらった。
「いらっしゃいませっ。あら、お嬢ちゃんと子犬ちゃん。ヘヴン島の『赤い珊瑚亭』で会ったことがあるかしら?」
バージルのお嫁さんはマリーと真珠のことを覚えていてくれたようだ。嬉しい。
「はいっ。私と真珠はお姉さんに会ったことありますっ。結婚、おめでとうございますっ」
「わんわんっ」
「ありがとう。今日はお祝いに来てくれたの?」
「ええと、ええと……はい!!」
マリーは嘘を吐いた!! 真珠がおいしい匂いに釣られて、ただ偶然この店にたどり着いたということは言えなかった……。
マリーは以前、バージルからご祝儀を催促されていたことを思い出し、アイテムボックスからクレムのために買ったチョコチップクッキーを取り出して、バージルのお嫁さんに差し出す。
「あの……ちょっとだけですけど、どうぞっ」
「まあ、いいの? おいしそうなクッキーね。それに、高そうな包装だわ」
フローラ・カフェ港町アヴィラ支店で買ったチョコチップクッキーは、リアルのフローラ・カフェと同じ包装なので『アルカディアオンライン』のNPCの目には高価な包装に見えるのかもしれない。
「マリー、サンキュな。リリア、今朝も大漁だぞっ」
「お疲れさま、バージルさん。お父さんが台所にいるから、魚を届けてあげて」
リリアと呼ばれたお嫁さんの左手の薬指には、バージルが贈ったと思われる指輪が嵌められている。彼女の指に嵌められているのは、バージルの『最愛の指輪』に違いなかった。
「めちゃくちゃラブラブオーラを感じる。羨ましすぎるっ。ウチもいつか絶対ジャック様に『最愛の指輪』を受け取ってもらう……っ」
アーシャは、幸せそうなバージルとお嫁さんを見て闘志を燃やす。
そしてマリーたちは、バージルとお嫁さんのリリアに案内されてカウンター席に座った。真珠はマリーの膝の上に乗る。
***
※マリーは、クレムのために買ったチョコチップクッキーをご祝儀として差し出す。クレムの分のスイーツが減った……。
光月14日 早朝(1時33分)=5月29日 17:33
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