第八百二十九話 マリー・エドワーズと真珠は教会前でアーシャに会い『マップ』スキルを取得しようとして断念する

海を目指したいがどの方向に行けばわからず、マリーと真珠は途方に暮れた。


『アルカディアオンライン』には『マップ』スキルがあり、以前、マリーと真珠は情報屋が『マップ』スキルを使っていたのを見たことがあるのだが、マリーも真珠もそのことをすっかり忘れている。

『アルカディアオンライン』には『スキル習得』という機能があり所持SPでスキルを得られるということも、マリーの頭の中にはなかった。


「マリーちゃん、真珠くん」


教会の前で立ち尽くしているマリーと真珠は、自分たちを呼ぶ声に気づいた。

マリーと真珠に声を掛けてきたのはフレンドのアーシャだった。


「アーシャさん!!」


「わーわぅ!!」


マリーと真珠は久しぶりにアーシャに会えたことが嬉しい。

マリーは笑顔で、真珠は尻尾を振ってアーシャを見つめる。

アーシャはマリーに微笑み、真珠の頭を撫でて口を開いた。


「久しぶりだね。マリーちゃんと真珠くんは、今日は何して遊ぶ予定なの?」


「私と真珠は海に行こうと思ってて、でも海がどっちの方向にあるのかわからなくて困ってました」


「くぅん……」


「マリーちゃんは『マップ』スキル取ってないの?」


アーシャに問いかけられて、マリーは瞬く。


『マップ』スキル!! そういえば以前。情報屋が『歌うたいの竪琴』に行く時に『マップ』スキルを使っていた気がする!!

マリーは『マップ』スキルの存在をすっかり忘れていた。

ステータス画面で『スキル習得』をタップしてスキル検索をすることすら、頭になかった。


「アーシャさん。私、今から『マップ』スキルを取りますっ」


張り切って言うマリーに微笑み、アーシャは口を開いた。


「じゃあ、マリーちゃんがスキルを取ってる間、ウチは真珠くんと遊んでるね。真珠くん、抱っこしてあげる」


「わんっ」


真珠はアーシャの言葉に肯いて尻尾を振る。

マリーはステータス画面を出現させて『スキル習得』をタップした。

そして『マップ』を検索をする。


「『マップ』あった」


マリーは『マップ』の説明を表示させた。



マップ【習得要SP10000/未習得】


コモンスキル/魔法スキル。

スキルを発動させると、プレイヤーだけに見える地図画面が表示される。

地図画面を1秒表示させている間、MPが1減少する。

スキルレベルが1上昇すると、登録できる位置情報の数が10増える。

スキルレベル1の時、取得できる位置情報は1つである。



「スキルポイント10000も必要なの……っ!?」


マリーはステータス画面に表示されている、現在の自分の所持スキルポイントを見た。

マリーの現在の所持SPは3059Pだ。

全然足りない……っ。


「マリーちゃん。KPやGPをSPに変換してもダメそう?」


「ダメそうです……」


アーシャの問いかけに力なく首を横に振り、マリーは項垂れた。

マリーが項垂れたのを見て、アーシャに抱っこされている真珠も項垂れる。

アーシャは項垂れた真珠をあやしながら口を開いた。


「『アルカディアオンライン』ってゲーム的に便利な要素を排除しようとする傾向が強いんだよね。プレイヤーがどんなに文句言っても、ステータス画面にゲーム内時間の表記をしないし、ログアウト時間のアラーム設定とかもできないし。街を出る時には絶対に検閲の列に並ばなくちゃいけないし、ワープ機能は存在しないし。デスペナが無いから、死に戻りが簡単で、強敵のモンスター討伐に気楽に挑めるのはいいけど……」


「アーシャさんは『マップ』スキル持ってるんですか?」


「うん。持ってるよ。ウチは、ワールドクエストとかで貯めたWPをSPに変換して取ったと思う。ウチのフレンドで、モンスター討伐してた時、めちゃくちゃ道に迷って困った子が『マップ』スキルレベル0の状態で取得したことあったけど、スキルレベル0だと登録できる位置情報の数が0だから、ほとんど役に立たなくて困ったって言ってた。でも『マップ』スキルのスキルレベルを上げるために、ほとんど役に立たない地図を表示させ続けたのは苦行だったみたい」


マリーは結構迷子になっているので、もしかしたら、そのうち『マップ』スキルレベル0を取得できるかもしれない。

……今、迷子で困っているプレイヤーに、ほとんど役に立たない『マップ』スキルレベル0を与えても全然嬉しくないだろうなあと思いながら、マリーは口を開いた。


「『アルカディアオンライン』のゲーム制作スタッフって、本当、強気ですよね。クレームが怖くないんですよね。プレイヤーは完全に無料で遊ばせてもらってる上に、ゲーム内通貨がリアルマネーに変換できる喜びがあるから、結局は『アルカディアオンライン』のゲーム制作スタッフの意向に従うしかないんですよね……」


「『アルカディアオンライン』面白いしね。不便なところがたくさんあるけど。じゃあ、ウチがマリーちゃんと真珠くんを海に案内するよ。『マップ』スキルを使わなくても、港への道はわかるし」


「いいんですかっ!?」


「くぅん?」


「ウチは錬金してて、魔力枯渇になって死に戻ってきたんだ。急いで戻らなくてもいいから、マリーちゃんと真珠くんに付き合うよ。あっ、そうだ。パーティー組む?」


「パーティ、組みたいですっ」


「わんわんっ」


「じゃあ、ウチがパーティーリーダーやるね」


アーシャはそう言ってステータス画面を操作した。

マリーの目の前に画面が現れる。



プレイヤーNO59992アーシャからパーティー申請されました。

受領しますか?


       はい / いいえ



マリーは『はい』をタップした。

新しい画面が現れる。



プレイヤーNO178549マリー・エドワーズはプレイヤーNO59992アーシャのパーティーに入りました。

パーティーメンバーの人数で、パーティーメンバーが討伐したモンスターの経験値が等分されます。

パーティーから離脱する場合は『フレンド機能』の『パーティー管理』をご利用ください。



「アーシャさん。パーティー組めましたっ」


マリーの言葉を聞いたアーシャは肯きを返して口を開く。


「じゃあ、行こうか。真珠くんはこのままウチが抱っこする? それとも歩きたい?」


「わんわぅ、わーわぅ、わっう」


「なんて? 真珠くん、今なんて言ったの?」


「真珠は『アーシャさんに抱っこしてほしい』って言ってると思いますっ」


マリーは真珠語を翻訳してアーシャに伝える。

真珠はマリーの言葉に肯いた。

真珠はアーシャにこのまま抱っこしてほしい。


「じゃあ、真珠くんはウチが抱っこしたままでいるね」


アーシャはそう言って歩き出す。

マリーはアーシャの後に続いた。


***


光月14日 早朝(1時16分)=5月29日 17:16

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