第八百二十八話 マリー・エドワーズと真珠は海を目指して歩き出した直後、海がどこにあるのかわからずに途方に暮れる
クレムへのメッセージを送信したマリーは、テーブルの上で手鏡を覗き込んでいる真珠に視線を向け、口を開いた。
「真珠。クレムにメッセージ、送り終わったよ。待たせてごめんね」
真珠は手鏡からマリーに視線を向け、首を横に振る。
真珠はマリーを待っている間、手鏡を見ていて楽しかった。
「これから何をしようか。私は錬金したいなあって思ってるんだけど、真珠はどう思う?」
「わんわぅ、わんっ」
真珠は錬金で作った……正確にはマリーがツボの錬金を失敗して生み出した……粘土で平皿を作ったことが楽しかったので、マリーの言葉に肯いた。
真珠も錬金がしたい!!
真珠の同意を得たマリーは考えを巡らせながら、口を開く。
「何を錬金しようか。ツボとか作るには土が必要だよね。でも、今は真珠と私しかいないから、土を掘るのは大変だし……」
「きゅうん?」
「あっ。そうだ。この前、マーキースからツボを買ったから、ツボに海水を入れて、それで塩を作ろうっ」
「わお?」
「そう、塩だよ。しょっぱいんだよ。そういえば私、港町にいるのに海とか全然見たことなかった」
「わう?」
「うん。海だよ。海は、しょっぱい水がいっぱいあるところなんだよ」
マリーの言葉を聞いた真珠は『しょっぱい水がいっぱいあるところ』を想像した。
……真珠には、よくわからなかった。
マリーは首を傾げている真珠の頭を撫でて微笑み、口を開く。
「真珠。これから二人で海に行こうっ。冒険だよっ」
「わんっ」
元気よく言ったマリーに、真珠は肯く。
真珠はマリーと一緒なら、どこに行ってもきっと楽しいと思った。
フローラ・カフェ港町アヴィラ支店を出ることに決めたマリーは、真珠を伴い、カウンターに向かう。
カウンターで会員カードを返却してもらったマリーは、会員カードを左腕の腕輪に触れさせてアイテムボックスに収納した。
「ごちそうさまでしたっ」
「わうわうわうわうわっ」
何も食べていないマリーとネクタルを飲んだ真珠が、カウンター内に立つ神官に言う。
「聖人様。聖獣様。またのご利用をお待ちしています」
神官が笑顔でマリーと真珠に言う。
マリーと真珠は神官に肯き、フローラ・カフェ港町アヴィラ支店を後にした。
マリーと真珠が教会を出ると、頭上には藍色の空が広がっていた。
ゲームの時間帯が『早朝』になったのかもしれない。
通りを歩いているのは、左腕に腕輪をしているプレイヤーばかりだ。
リアル時間が夕方なので、ゲームにログインしているプレイヤーが多いのかもしれない。
NPCは、また寝ている時間なのだろう。
「真珠、海に行こうっ」
「わんっ」
マリーと真珠は視線を合わせて肯き合う。そしてマリーと真珠は一歩踏み出し……マリーは足を止めた。
「真珠。……海って、どっちに行けばあるの?」
「わうー。くぅん……」
真珠は『海』がどこにあるのかも、どっちに行けばいいのかもわからない……。
***
光月14日 早朝(1時07分)=5月29日 17:07
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